少年陰陽師2

□第四十九部
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「やっぱ、誰もいないか」

 物の怪が苛立ちを混ぜ込んで吐き出したそれに
昌浩は無言という形で肯定の意を示す
陰陽寮から真っ直ぐ帰らずに立ち寄った邸
久方ぶりに門前に足を揃えたこの邸は
外見こそ全く変わっていないものの
受ける印象はがらりと変わってしまっていた

音が無ければ気配も無い
人がいるにしては静か過ぎる邸は
秋らしさを持ち始めた寒色の高空の下
周囲との繋がりを絶たれたかのようにひっそりと佇んでいる

「前に来たときより結界が強くなってる」

 春に来たときに張られていた結界も強かったには強かったが
術者の力量が如実に現れていたが
今触れられるところにある結界に過去の面影は無い
完全に物としての質が変わっているそれは
あの日感じたものを残らず払拭してしまうほどに印象が濃い

そこにあるものを護るだけではなく覆い隠してしまうような
まるでこちら側とは一線を画してしまったような
そんな印象がある

「明後日、顔が見えたらいいな」

 門に触れようとした手が結界によって阻まれる
その感覚があの夢から押し流されたときの感覚とかなり似通っていて
ひどく昌浩の胸を掻き乱す

彼女は、大丈夫なのだろうか
喪ったものの大きさは昌浩にはわからない
きっと、あの存在は彼女にとっての唯一だったのだろう
あんな表情を双眸に閉じ込めてしまうほどに
本当に大きな存在だったのだろう

「出てこなければ連れ出せばいいだろう」

 目に見えて不機嫌な物の怪の一言に昌浩から苦笑が漏れる
物の怪は物の怪なりに彼女のことを心配しているのだ
普段から気に食わないだの何だのと言ってはいるが
時々妙に気に掛けている節がある
素直に接してやればと思わないことも無いが
言っても多分聞かないことはわかりきっているので
あえて言う必要も無いだろう

「・・・帰ろうか」

 物の怪を抱き上げた昌浩の踵が返される
入ることも門を叩くことも許されないのであれば長居は無用だ
一度様子を見ておきたかったが出てきてくれないのであれば仕方が無い
明後日、また逢えることを待つことにしよう


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