少年陰陽師2

□第四十八部
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(相変わらず視せる気はないか)

 天井を仰いで方の力を抜いた晴明の気分には
呆れという感情の影響が大いに含まれている
以前にもこうして視えないことに頑なだと思ったことがあった
あの時は僅かにも収穫があったものだが
今回はそうもさせてくれないらしい

(あの状態からそう回復しているわけでもなかろうに)

 やれやれと吐いた息は迷い込んだ心地の良い風に溶けて流されていく
以前にもこうして探りを入れたとき確かに邪魔はあった、あったが
ここまで全てを撥ねられるものではなかった

「随分とまた、急だのぅ」

 目を細めて思い起こされるのは過日のこと
あの時の彼女の様子を晴明は克明に記憶している
細い両腕に収まった人型の細部さえ
こんなにも鮮明に脳裏に描くことができる
まるで鏡の向こうから連れてこられたかのように全く同じ姿をした人型に
晴明は感嘆の念さえ覚えてしまったのだから

だが、あの人型が望まれた役目を果たすことはなったのだろう
ただ一人で道を辿っていたことが
その何よりの証となる
綺麗な人形を抱えて一人道行く彼女は
まるで探し物を見つけ損ねて置いてきてしまったようであった

様子を見に行ったほうがいいかもしれないが
彼女にとってそれは避けたいことの一つになるだろう
いや、最初から頭にも無いかもしれない


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