少年陰陽師2

□第四十八部
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「今日また夢を見て、闇がもう少し薄れていたら、わかるかもしれませんが」

 はっきりしない事象をぽつりぽつり繋げていく中に
晴明がふと聞き留めた語があった
彰子は確かに同じような夢を見るとは言っていたが
まさかそこに変化があったとは
じっと考え込んで喋らない彰子にそのことを尋ねてみれば
すっかり忘れていたのだろう
しまった、という顔をして言葉を捜し始めた

「夢を見る度に、闇が薄らいでいくような、軽くなっているような・・・・・」

 説明しようにもうまく言葉が見付からないというもどかしさの中
あの不思議な印象を探す胸中にはたと浮かんだのは
なんてこと無い自然現象の一つ

「空にかかった雲が、流れていくような」

 声に出したそれが、引っ掛かりも無く胸に落ちてくる
探していたものはこれだったのかと
やけにすっきりとした感覚に
いつの間にやら肩に入っていた力が抜けていく
顔を上げたそこにいる晴明はすぐには何も言わなかったが
それはきっと、彰子の様子を見守っていたからだと思う
まとう空気の変化を感じ取った晴明が目元を和らげた

「夢の中にいる誰かがわかれば、自然に原因は明らかとなることでしょう。・・・あぁそうだ、万が一の時のために、お守りをお渡ししておきましょう」

 膝を立て、腰を上げた晴明が円座に戻ってきたときに手にしていたものは
朱色の編み紐に水晶の勾玉を組み込んだ
まるで髪飾りの一部のような洒落たお守りであった

「眠る時、傍に置くのではなく、この輪の部分を指に通してくだい。そうすれば、夢の中でもその効果を発揮してくれることでしょう」

 受け鉢のようにした両手の中に落とされたお守り
鮮やかな色彩をそっと手の中に閉じ込めた彰子が静かに一礼する
感謝を表す言葉の後にまた報告に来ますと残すと
彰子は晴明に見守られつつその場を後にした


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