少年陰陽師2

□第四十八部
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「晴明様、よろしいでしょうか」

 壁代の向こうより渡ってきた問いかけに
巡らせていた思考を一時途切れさせることを余儀なくされる
入室を促す応えを受け取って姿を現したのは
安倍邸に身を置いている彰子であった

勧められた円座を素直に衣の下にした彰子は
微笑みを湛えて待っている晴明に何事かを言いかけては口を閉じ
また言いかけては戸惑うようにやめることを幾度か繰り返した後
息を落とすように瞳を伏せて
胸に凝っていることをぽつりと引き出した

「ここ何日か、同じような夢を見るんです」

 夢ですか?と単語を繰り返した晴明に彰子が小さく首肯する
先を望む雰囲気に押されてゆっくりと始まったのが
あの暗い夢の話であった

とても狭いのか、はたまた広いのかわからない空間に
足元一面に張られた水のような奇妙なものと
何があっても何が無くても
その一切を覆い尽くして尚自身の内に落としてしまう
濁ったように昏く、煮詰めたように重い闇があること
始めはそこにいることに戸惑いと不安があったが
今ではも慣れてきてしまったこと
そして

「誰かが、水の向こうにいる気がして」

 それまで話を聞いていた晴明が
ふと内容を呑みあぐねたかのように尋ねた

「その誰かは、彰子様のご存知の方でしょうか」

 はっとした彰子だったが
次の拍子にはその面は曇ってしまっていた

「まだ、わかりません」

 迷うような声音には言葉を選んでいる節がある
自分の中にわだかまるそれを表すための適切な語を探しかねているのかもしれない
待っていればおのずと見つけ出せるだろう


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