少年陰陽師2

□第四十四部
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「・・・・・約束は、どうするの?」

 仄かな笑みを刻む口元が微かに歪む
幾度も幾度も確かめて
そのために沢山のものを費やしてきた
たった一つの願い事

「後は、相性のいい日を待つだけなんだよ」

 一緒にいたい
一緒にいよう
小指を絡めあった幼児の約束
ずっとずっと追いかけて
もうすぐで掴めるというところまで来た、今

「それだって、一月も無いのに」

 搾り出すような平常を嘲笑うような衝動が胸を締めていく
今すぐにでも奔流を呼びかねないそれらをどうにか押さえつけ
譲刃は応えない金燐に求め続ける
そうして、明らか過ぎる可能性を否定し続けている

「もう一々交代しなくていい、ここにいる必要も無い」

 笑おうとしたが、強張って笑えなかった
視界は滲まない
滲ませない
滲んでしまえば、それは認めることと同義だ

「沢山、沢山、考えてるんだよ。二人じゃなきゃ、できないことばかりなんだ」

 言い募る言葉に焦りが混ざり始める
違う、冷静にならなきゃ
冷静になるんだ
冷静になって
冷静に、なって

「だから「一緒に」って、約束だったね」

 金燐が譲刃の言葉を引き連れていく
同意を示そうと思うも声が出ない
それでもなんとか作り出した声に
金燐は微笑んだままこう告げた

「ごめんね」

 与えられたそれは、予想していなかったわけではなかった
だからこそ、だからこそ信じたくない一心で塗りこめたそれを
封じ込めたそれを
たった一言が、いとも容易く浮き彫りにする

「・・・・・嫌だ」

「ごめん」

「・・・嫌だ」

「ごめん」

「嘘だって、言って」

「言うだけなら、簡単なのにね」

 ごめんね
謝るばかりの声ですら
もう、こんなにも、薄い

「嘘じゃ意味が無いよ」

 歪んだ笑みに苦笑が混ざる
でも、それでも
希望を求める声が止まない
離れたくないという叫びが止まない
あんなにも夢見た未来を
譲刃は捨てられずにめいっぱい届くことの無い指を伸ばす

「ごめんね」

 まだ謝罪を繰り返す金燐に、嘘なんて吐く気が無いことを知る

「本当に、ごめんね」

 もう質感すら保てなくなった指先がゆっくりと上げられる
すまなさそうに笑んだ白金が濃紺を包み込む
すがる幼子の双眸が潤むに合わせるように
白金がほろりと崩れて散って

慟哭が世界を撃ち抜いた


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