少年陰陽師2

□第四十四部
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 丁度心の臓を破るように貫通していた腕が解けた次の拍子には
支えを失った金燐の体は大きく傾いでいた
未だ現状を把握できないまま手を伸ばし受け止めたそれに肉体の重みは無く
まるで喪われたかのような希薄さを腕に落としてくる
そうして実感したあまりの儚さに
急速な現実感が込み上げてきた

「―――治そうなんて考えないでね」

 ぽつりと向けられた制止と
翳した手に乗せられた色の無い冷たさが
譲刃の自我を完全に引き戻す
治すも何も、忘れられたように空いた風穴から零れるものは何も無い
何も無い、筈なのに
何もこの眼には映っていない筈なのに
片割れだからこそ繋がっている感覚が
視覚と噛み合わず混乱を招くばかりだ

「代わるのも駄目」

 柔らかな調子のしかし確固たる意志を持った抑制が譲刃の行動を封じにかかる
鈴を翳そうとした腕が緩やかに水面へと落ち
放とうとした唄が喉の奥で塞き止められる

何故動かない、何故制止を振り払えない
考えても考えても
混乱が混乱を呼ぶ頭は正常に働いてくれない
何か使っているのだろうか
でも何を、何を使っているのだろう
この手は乗せられているだけだ
力が送られてくる気配は無い
手の他に寄越された干渉は

「・・・言霊」

 混乱に波立っていた脳内が急速に凪いでいく
譲刃と金燐は双児だった
二つが一つになって、一つが二つになった
世にも珍しい、正真正銘の双児
その性質の殆どを共有している故か
よほど特異な物事を除いて二人はあらゆるものを共有していた
言霊も、その内の一つだった

「こんな時に使うなんて、酷いよ」

 力がある者の言葉には力が宿る
自分達が力のある者だと自覚していた二人は
当然言霊を操る方法だって知っていた
知っていたからこそ
今までお互いに使ったことなんて無かったのに


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