少年陰陽師2

□第四十三部
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 脇腹を狙ってきた足を身を捻ることで躱し
顔を掴んで水面に叩きつける
体勢を立て直すより前に喰らわせようとした攻撃を避けられ
紙一重で避けられたと思った首筋を爪が掠めていく

かすかによろめいた足元を掬われかけたものの
軽い動作で水面を蹴って跳び上がり
降下の勢いに任せるまま
立ち上がってすぐのところにぶつかりに行くが
発動させた詠み唄の威力が狐火と拮抗してしまい
こちらの牙が相手に届くことは無かった
だが、一呼吸置かせることなく幾度も幾度も牙を剥き
その度に黒狐の体力と精神力を削ぎ落としていく

三の字を刻み込まんとした腕を掻い潜って懐に入り込み
ごく短い言霊によって威力を底上げさせた拳で
黒狐の鳩尾を思い切り突き上げる
結果一瞬呼吸を奪われくの字に折られた身を
今度は顎を殴り上げることで直線に戻し
無防備になった脇腹に紫電を纏った回し蹴りを入れ
黒狐が抵抗もできずに宙を彷徨っている間に
腕を伸ばして高々と鈴を掲げる

シャン

「冠するものは火の気水の気、貫するものも火の気水の気!」

 轟音と共に水柱が立ち昇り
それが一瞬にして鋭利な槍の姿を持った
水槍の芯を奔る炎槍が宙を降り始めた獲物を見つけると
まるで吼えるように炎の勢いを増す
予想だにしなかったそれに獲物が自身の炎も身に纏うも
その速度、威力共に水と炎両方は全くの影響を受けることなく獲物を貫き呑み込み
そのまま捕えられるかと思った矢先
水も炎も内側から弾け散った

「・・・のれ、おのれ、おのれ!人間!」

 衣は至る所が破れて焼け落ち
強靭であろう肌には無数の傷が存在し
漆黒で統一された毛並みは随分と乱されている
猛る炎の勢いは減るどころか増す一方で
怒りに満ち満ちた面に冷静さは欠片も見当たらず
ただただ屈辱に対する憤りに眼をぎらつかせるばかりである


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