少年陰陽師2

□第四十二部
1ページ/4ページ



 譲刃が己と互角に張り合っているという事実に
黒狐はただただ愕然としていた
夢殿に引き込まれるまでは確かなる力量差が横たわっていた筈だ
だというのに、何故この人間は自分の動きについてこれているのだろう
仕掛けを施した時でさえみっともなく怯えていたというに

(面倒な・・・!)

 わざわざ人界に降りてきたのは人を相手にするためではない
暁蓮の子、それも狐を探しに来たのだ
更なる力を得ようと思うならおのずと必要性も生まれるのであろうが
やはり一番の目的は狐の尾を具えている金燐なのであって
譲刃は所詮目的に辿り着くまでの鬱陶しい障害に過ぎない

「斬!」

 振りかざされた刀印が薙ぎ払われると共に
水面諸共黒狐の薄皮が引き裂かれる
保たれていた均衡が崩れた瞬間だった
表情を驚愕に染め上げる黒狐
そこに生まれた一瞬の隙を逃すまいと掴みに行った譲刃が
一気に攻めの姿勢に転じ
その体勢を徹底的に崩しにかかる

一度渡り合えると確信した譲刃に容赦などある筈が無い
僅かに引き退がった動揺に一切手を緩めることなく
続け様に攻撃を打ち込んでくる姿は
嫌なくらいあの人間の姿を思い起こさせてくれる
正攻法を用いていた間の話しではあるものの
黒狐達は暁蓮と背中合わせで闘っていた人間に敵わなかった
討ち取ったときの非正攻法ですら数があったからこそできたこと

しかし、狐達は勝利に驕り、手にした力量を過信し
挙句人間の子供に容易く敗北の二文字を背負わされた
折角暁蓮と人間の女を殺して奪った力を無駄にした上
予め用意されていた可能性を悉く持っていってくれやがったのである
勿論黒狐も例外ではない
例外ではないにしろ、自覚の無い苛立ちは募る一方である
ああ、この身が現にあったならばこの人間を相手に発散することもできたろう
だが今は違う、そんな余裕が今の彼に備わっているはずもない

「生意気な人間が!つけあがるな!」

 怒気も露に向けられた牙が黒紫の闘気を燃え上がらせ
今にも叩き込まれようとしていた蹴りの一手を押し返す
禍々しい色にやむなく跳び退いた譲刃の琴線を何かが爪弾いた
反射で視線を投げかけた先にいるのは
巻き込んでしまった三人の内先程まで見えなかった二つの影
猛る黒狐を打ち負かすべくすぐさま意識を逸らしたものの
目線がかち合った刹那の時に
譲刃は二人が何をしようとしているのかに気付いてしまった


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ