少年陰陽師

□第三十八部
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 喰った
木陰に隠れていた二匹の三尾が告げた事実に
譲刃は呼吸さえ忘れた
こちらを見るなり実父である暁蓮を思い出したらしい彼らは
実に好き勝手に知りたかった事柄を喋ってくれている

(父様を、喰っ、た?)

 休みなく、時折笑い声を交えながら
滔々と語られる過去の話は
愕然と立ち竦む耳を通過しては
譲刃の内側にとても重たいものを重ねていく

暁蓮は里の中に数少なく存在する九つの尾を持った狐だった
彼なら里を守って生きていくだろう
誰もがそう思って、またそうなっていく筈だった
でも、彼はそれを選ばなかった
金燐と同じ白金の焔を宿す暁蓮が選んだのは
狐に対抗する力を持った人間

「これでまた尾が増える」

 同族を手にかけた狐が喉の奥を鳴らす
尾を増やすためには時間がかかる
ましてや九尾だなんていったら一体どれほどの時と力を要するのか
考えるだけ無駄というものだ

「ああ、しかも今度は三つ一気にだ」

 しかし手っ取り早く尾を増やす方法を彼らは手に入れた
力がなければ奪えばいい
丁度お誂え向きの者が一人いるではないか
姿を消したとてさしたる問題はない
奴は人里に下りたのだ
そう言えば全てが片付く
疑問に思う者などどこにもおるまい

「そういえばあれは邪魔だったな」

 あれ、と聞いた譲刃の肩がぴくりと反応する
鈴を持った人間の女
それだけで、その言葉だけでその女が誰かということがわかった
鈴を持った女なんてごまんといるだろう
だが、白金の狐の隣にいる鈴を持った女なんて
譲刃の知る人間にはたった一人しかいない
その人が彼らの言うように狐達の前に立ちはだかったのなら尚更

「あぁ、力は暁蓮ほどではなかったが」

 味はずっと上だったな
思い出すように出てきた言葉に
頭の中で何かが弾けた


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