少年陰陽師

□第三十八部
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虚しさにかられる眼差しで見詰めるのは虚空
刻み込むように噛み締めるのは悔恨
逃すまいと握り込むのは
終わりを見付けられない憤怒
この程度なのか
奪っておいて、喰らっておいて
たった、これだけ

(何のために、一体、何のために)

 自分は二度と無いものを攫われなければならなかったのか
生き写しだと言われるも記憶にいない両親は殺されなければならなかったのか
たかが三尾如きに
なめてかかった小娘に掻き消された
きっと二人の足下にすら及ばない狐如きに
何で、どうして、何故

いくら考えても答えはない
思いを巡らせたとて何も知らなければ意味が無い
追いかけるそこに結末が見えぬなら
自分は一体何に行き着けばいいのか
留まることを許されず持て余すだけの感情を
何に預ければ正解なのか

誰か教えてくれ

(“譲刃”)

 意識の狭間に滑り込むようなそれに
身を貫くような感覚が腹の底に響く
殆ど反射で振り返ったその先の光景に
譲刃の面に映えていた感情という感情が根こそぎ剥がれ落ち
考えるより前に体が行動を開始した

駆け出した距離に隔たりはない
懐より引き抜いた短い鈍色に手を翳し
特別の呪詛をたっぷりと流し込む
最も力が籠もる体勢を本能が知っている
そうして狙うのは只一点
こちらに背を向ける黒狐の
どうしようもない根幹の在処だ

「莫迦か」

 速度を失った口端から一筋の赤が滴り落ちる
今自分がどうなっているかなど確認せずともわかる
心臓の奥をせり上がってきた鉄の味が口を経由して
腹に穿たれたままの宵闇の毛並みにぶちまけられる
とてつもない熱と痛みを超えた何かが全身を鉛のように重くするが
そんなこと今の譲刃には些末なこと


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