少年陰陽師

□第三十八部
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「・・・けないで」

 膨張する霊力に呼応するように
手にした鈴が意識を持つかの如くわななく
きっと鈴は覚えているのだ
前の持ち主のことも
その想いの丈も
全て記憶してこの手の中に在る

「ふざけないで」

 一度奪って、また奪うのか
お前らが喰らったのは二人の力だけじゃない
それから先にあった未来を、時間を
薄っぺらい欲望を叶えるためだけに
狂おしいほど力が欲しいわけでもなく
努力して尚届かないというわけでもなく
ただ面倒だという怠惰な感情だけで
誰かが必死になって掴んだほんの少しを
根こそぎ掻っ攫っていっておいて

満足が行かなくなったから
面白くなくなってきたから
たったそれだけの
それだけの理由で
次に手を伸ばそうというのか

「人間程度が何を言っているのやら」

「大した力も持ち合わせておらぬくせに」

 好ましくない類の眼差しを向けてくれた二匹の人型を取った狐は
どうやら完全に譲刃のことを取るに足らない小物と認識しているらしい
確かにまだ年若い譲刃は、己が両親は愚か
片割れである金燐にも遠く及ぶことはないだろう
しかしそれはあくまで九尾である金燐にという話

シャン

「見縊るなよ」

 刀の側面を金槌で叩いたような音と共に
二匹の身をいくつもの赤い筋が駆け上る
いきなりの事態に理解が間に合わない二匹に対して
譲刃の態度は寒気がするほどに冷静であった
真っ白な頭の中にぽっかりと浮かぶ想いに
いっそがんじがらめにされてしまうのではないかと錯覚する程
不安定でいる感覚は不思議にも安定している
踏みしめた土の感覚に目を眇め
迷うことなく鈴を振りかざす

「人間が弱いなんてのはお前等の傲慢だ」

 気持ちが悪いくらいに明瞭な言霊より生み出され
真っ直ぐに標的めがけて駆ける衝撃に
一瞬にして狐の姿が飲み込まれた
轟音を産声とした雷が破壊的な光を溢れ返させたそこに生き物の影はない
あるのは未だ名残を燻らせるく焦げた地面のみ
その名残さえ、今消え失せる


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