少年陰陽師

□第三十七部
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 咄嗟に膝を落とした頭上を紫色の狐火が通過していく
盛大に耳をつく舌打ちの気配は
お返しとばかりに放たれた白金の炎に
距離を作ることを余儀なくされた

今のうちから黒狐の体力を削れるように
立ち上がる前に簡単な罠を敷いてから
金燐と並んで暮れ始めた都を
ひたすら外を目指して疾走する
家屋があって人のいる都で黒狐を迎え打てるわけもなく
大内裏を飛び出した二人は今
一刻も早く都から離れんがために
人目の少ない道を全力で駆ける
この際門から外へ、なんて面倒なことは言っていられない

「わざわざ出てきたくせに逃げるだけか!」

 半身振り返って描かれた五芒星を
苛立ち紛れに放たれた狐火が容易く砕く
術が破られたことにより襲い来る衝撃をどうにか地面へ流すと
危うく崩れかけた体勢を素早く立て直し
目前に迫った都と外を隔てる障壁を越えるため
だん、と地面を一層強く踏み込んだ二人は
全く同じ瞬間に寸分違わぬ姿勢で跳躍した

そのままでは衝突してしまいそうであったが
身を捩ることによって危なげなくやり過ごし
再び地に足を付けるや否や
脇目も振らずに剥き出しの地面を駆け抜ける

「いい加減に」

 自分たちを追ってくる妖気が急激な膨らみを始める
はっとして顧みた肩越しに見えたのは
その紫暗の双眸に激昂を輝かせ
感情を燃え上がらせる黒狐の姿

「止まれえええええええ!」

 無理矢理保っていた速度を殺し
向かい来る衝撃を打ち破らんと構えたところで
横から伸びてきた腕に肩を掴まれ
後ろへと引き込まれるのと入れ替わりで
濃紺の影が自分の前に身を躍らせる
驚愕に息を呑む金燐の耳朶を
柏手の音が鋭く叩いた


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