少年陰陽師

□第三十四部
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 不意に、心臓が一つ跳ねた

今日はこっちに行こうと言いながら
東に曲がろうとしていた角を
素早く身を翻して北に曲がる

ぶつかり合う力同士が周囲の空気諸共
全ての物質を細かに振動させる
どうしてか昌浩の脈動に干渉してくるようなこれは
恐らく狐に属する何かの力だろうか
予測するのみで正体の掴めないそれに
心臓の鼓動が加速する

「え?ちょっ、ま、わぁああっ!」

 気配がある方向を探り探り走っていた昌浩を
いきなり顕現した六合が片手で軽々と抱え
時間短縮とばかりに堀へ屋根へと跳び上がる
屋根から屋根へ跳び移るに伴って上下する景色に息を呑むが
こうするほうが昌浩が地上を駆けずり回るよりも格段に早いし
おまけに体力が減ることもない
勿論有難いことではあるのだが
いかんせん予告無しで行動に移されると怖いものがある

「もっくん!これって狐!?」

 徐々に近付く妖気に
首から提げている物を狩衣の上から握りながら尋ねた昌浩に
六合の横で速度を合わせている物の怪はそうだと首肯する

狐と言えどかなりの時間を生きたものか
はたまたそういった一族の一人であろう
それとぶつかっているもう一つの力の見当は付いている
今わかる限りでは比較的劣勢にあるようだ
ということはそのくらい力量差があるのだろう

そしてあの場所で見たあれが真実彼女のものなら
きっと今体調が万全ではないはずだ
だとしたら物凄く危険な状況に身を置いていることになる

「六合!もっと急いで!」

 昌浩は晴霞と話がしたい
どうしてあの時逃げたのかも
違うようで同じ金色のことも
地面に広がっていた血のことも
まだ一つたりとも訊ねられてはいない
気になったのだ
気が済まないのだ

(直接訊いて、直接答えがあるまで)

 絶対に死なせてなどやるものか


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