少年陰陽師

□第三十三部
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(植え付けられてた・・・?)

 熱が生じた箇所は傷つけられたそこであった
もしも奪えなかった時の為にと
刻んだ傷に何かを植え付けておいたのか
躯にではなく
魂魄に直接的に

(消せたと思ったのに!)

 植え付けられていたなら夢を祓っても意味がない
結果を残して過程を取り払ったとて
取り除かねばならぬ結果がそこにあるのだ
結果さえあれば物事は進展を見せる
未熟者が警戒を怠った
目覚めた時に違和感があって当たり前だ
魂にあるものが躯に馴染んでいなかっただけ
もしあの時ちゃんと深くまで探っていたならば
今こうして紫の狐火を纏う黒狐と向き合わずとも済んだものを

「そうそう、単刀直入なんだけどさぁ」

 面倒そうに後頭を掻いた黒狐の男が
緊張により動きを固めてしまっている晴霞に視線の矛先を定め
うっそりと紫暗の瞳を細めると
瞳と同じ色の狐火を六つ
ぼうという音をつけて背後に浮かべる

「お前、いらないわ」

 微かな声を漏らす間もなく
晴霞の額は黒狐の掌中にあった
事態が全くもって飲み込めていない晴霞の眼は
黒狐をなるだけ大きく映そうと
これ以上ないくらいに見開かれたまま
大きな掌に収まる額は
次第に締め上げられてゆくのだった


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