少年陰陽師

□第三十三部
4ページ/5ページ



「っあ、く」

 吸い取られるどころじゃない
引き摺られていくような感覚
先程のように不鮮明ではなく
今ならはっきりとわかる
引き摺られていくのは
魂ごとの全部だ

シャン

「器は壁、意志は堀、来る略奪の腕を妨げ!」

 振り上げた鈴の音が言霊の力を底上げする
持って行かれるかと思われたものは全て身の内に留まり
這い出ている途中だったものは
何も得られることなく弾かれた

籠もっていた熱が一気に引き抜かれ
急変した体温に身が震え
弾くために削られた体力が
対価の疲労分となり
一気に躯に返還される
たとえ僅かなそれであったとしても
一度に来れば些か辛いものだと考えつつ
弾いたものの正体を目にした晴霞は
短く息を呑んで言葉を失った

眼前に横たわる力量の差を痛い程一身に浴びながらも
対峙すべく立ち上がって鈴を握りる手に力を込める
加わる負荷に鈴が小さく文句を告げるも
今の晴霞にはそれに構っていられる余裕が無い
己の現状のなんと口惜しいことか

「あーあ、やっぱ夢じゃこの程度だよなぁ」

 夢とは恐らく昨晩視たあの夢であろう
気味の悪い紫の狐火に動作を制限されたあの夢
悔しくも逢えるはずだった金色には逢えず
嫌な思いだけが残る
正夢にならぬよう祓ったあの夢


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ