少年陰陽師

□第三十三部
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「降ってこないなぁ・・・」

 わざと雑鬼達の溜まり場の付近を歩きながら
望ましげに小さく呟かれた言葉は
初夏に入ったと感じられる風に攫われて紛れて消える
夜になってから自分の相手をしてくれるのは雑鬼ぐらいしかいない
だから久方ぶりに遊んでもらおうと思ったのに
どうも落ちてくる気配が一向に無い

(いつもなら遠くても降ってくるのに)

 たとえ都の何処を歩いていようとも
彼らは自分をからかってくれる
毎日毎日頼んでもいないのに降ってくる

最近都に異変が起きたという情報は無いし
そういった兆しも見受けられない
よくある雑鬼達の気紛れだろうか
でもああいった雑鬼達だが
芯がしっかりしている者は多いし
一日一潰れを途切らせる気も無いだろうに

(何でだろうな)

 零れる溜め息を追いかけて目を伏せる
今日はもう帰って寝ようか
いつもより早めに寝たら
いつもより長く一緒に居られるかもしれない
譲刃と同じ姿の
でも殆どが違うあの娘と

“ミツケタ”

 前触れも無く耳の奥に囁かれた声に
首筋の一部が反応した

「な」

“ミツケタ ミツケタ ミツケタ”

 に、と続きかけたその声は
火傷を負いそうな程の熱によって奪われる
あまりの熱さに面を歪めた晴霞が
無意識に熱を孕むそこに指を伸ばせば
触れた末端から何かが吸い取られるような感触がして
気持ちの悪さに指先を離した所から
更に熱をはらんだ何かが這い出し始める


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