少年陰陽師

□第二十九部
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 立っているのは果てなく続く暗い世界
ここはどこだろうと思い足を動かせば
世界をそのままに映した水が波を立てた

何気なく見下ろした足下が赤に染まっている気がして
うなじを冷たいものが滑り落ち
半ば反射で足を引く
何処までも拡がって帰ってこない波紋は
暫くすれば足下から消え
水は完全なる平面へと形を戻す

変化の収まった水面を見詰めても
やはり空間の色を落としたように暗く
先程のような印象は見受けられない
そういえば何故自分は水の色がわかるのだろう
いやそれ以前に、何故自分の姿が見えるのだろう
一切の灯りのない此処で
どうして視界が効くのだろうか

「まさかやっと気付いたの?貴方は前にも此処に来たことがあるのに」

 声の聞こえてきた方向は後ろ
この一ヶ月追い続けた彼女の声に
落ち込み気味だった気分が浮上する

昌浩に刃を突きつけた日以来
晴霞は互いを他人だと言わんばかりの態度をとり続けた
陰陽寮で顔を合わせれば丁寧な敬語を使い
外では見かけた次の瞬間には見失い
ようにはずっと避けられていたのである

あんなに冷たい対応を繰り返していた方から声を掛けてくれたのだ
昌浩の心が躍らないわけはなかった

「譲刃じゃ・・・ない・・・?」

 あの黒々とした髪はまばゆいばかりの白金
同じく黒かった瞳の色も白金に輝き
徒人にはない鋭さが宿っている
纏うそれは晴霞とは色違いの白練りの浴衣に唐紅の帯
ほぼ全てが彼女と同じで、でも反対の誰か


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