少年陰陽師

□第二十七部
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「あーあ、相変わらず無茶ばっかり」

 地に伏せっていた身がむくりと起き上がり
服に付いた砂を軽くはたく
窮屈だろう髪に自由を与えると
嬉しそうにに舞った髪が眩い金の輝きを纏った
思い出したように落ちている烏帽子を拾えば
背後より誰かの怯えから来る声が聞こえてくる

あからさまに舌打ちして鬱陶しげにそちらを振り向けば
どこぞの貴族がすっかり腰を抜かしているではないか
あぁもう、これはなんというか
本当に面倒臭い

「も、ももも物の怪風情が!ここここっここになな何の用だっ!」

 立派な成人のくせに怯えを露わに言葉も噛みまくり
無礼にも初対面の者を指差し
あまつさえ小刻みに振るえているだなんて
貴族というのはどうしてこうした軟弱者ばかりなのだろう
たかが人外の者がそこにいるだけで掴みかかってきたわけでもあるまいし
黙って立ち去れば関係などしてやらなかったものを

(忘れてもらうのが手っ取り早いか)

 どうせ動けやしないだろう男の眉間を射るかのように指差し
黄金の双眸をついと細めれば
貴族を囲うようにいくつかの黄金の炎が浮かび上がり
引きつれた短い悲鳴を上げた男は縮こまる

「お前はここで何も見ていない」

 浮かべている炎が僅かに光量を増した
縮こまっているそいつは
恐怖で既に見開いている眼を更に見開き
自分の周囲で揺らめく黄金に見入る
きっと理解しようという考えと全く正反対の考えが
男の中で拮抗しているのだろう

「何も見てなんていない」

 忘却を促す言葉を数回繰り返し
そろそろいいかと男に向けていた指先をすいと空に滑らせる
燃料もなく灯っていた炎が男を包むように収束したと思ったら
一切何にも干渉を及ぼすことなく
蝋燭の火に息を吹きかけたように薄れていく

黄金が散じたそこで男は気を失っていた
このまま捨て置いても問題はないだろう
たん、と軽やかな音を残して
金の輝きは何処へと姿を消した


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