少年陰陽師
□第二十七部
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「譲刃!」
見付かったということには瞬時に理解が及んだ
追い付かれてはいけないと思った
今あの姿を見たくない
あの真っ直ぐな瞳に向き合いたくない
彼の優しさをお人好しと否定した
話し合いで終わらせようとした彼の意志を遮って身動きを奪い
あまつさえ傷つけて逃げ出して
どうして彼と向き合えるというのか
「待ってっ!」
今日の昌浩はいつもより物凄く足が速かった
走るために必死で振っていた腕を掴まれて
ぐいと後方に引っ張られる
こんなときに腕を掴まれたものだから
つい反射的に身体が防護手段を取ってしまう
相手の引っ張る動きに合わせて回転
そのまま脇腹に回し蹴りを入れるという手段が
無防備な昌浩に炸裂する
「かはっ」
想定外の蹴りをもろに食らった昌浩が
命中した脇腹を抱えてくずおれる
それでも晴霞の手だけは離していない
咳き込んでいる昌浩の傍に屈んで謝罪したい衝動をぐっと抑え込み
掴んでいる腕を大きく振り払った
予想よりも呆気なく外れた昌浩の手に狼狽え
その手が掴んでいた箇所を無意識に己が手で包み
高速を振り切ったであろう物の怪の声が空間に響き渡る中
動けない昌浩を前に数歩後ずさり
身を翻して駈け出した