少年陰陽師

□第二十七部
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シャン

「枷を結ぶならば弦か縄か、否、我が選びしは強固なる鎖よ!」

 唐突に具現した細く長い鎖に
物の怪の白い体躯はあっという間に搦め取られる
身動きが取れなくなったことを走りながら確認し
とにかく一行から離れることに全力を傾ける
近道だろうが遠回りだろうがもうこの際関係ないと
すぐ近くにあった角を曲がったところで視界が急激に回転する
いきなりのことにひゅっと息を呑んだ晴霞の視界を埋め尽くすのは
夜空のように深い色合いの一枚の布

(たっ、俵担ぎにされた・・・っ!)

 ついさっきまで蹴っていた地面が遠くにあり
背中には大きな手があることがわかる
がっしりとした肩が胃の辺りにあって非常に苦しい
逃れようと身を捩ってみるものの
圧倒的な力量差がある晴霞では到底逃れられるはずもなく
疲れだけが増すという結果に落ち着いた

(降ろしてほしいけど聞いてもらえないだろうなぁ)

 六合にいとも容易く担ぎ上げられ
げんなりとした様子で晴霞は思う
辺りを見回してみると幸運にも昌浩の姿は見当たらず
少しだけ安堵した自分がいた

しかし物の怪と六合が昌浩から遠く離れるとは思えない
もしかしたらもう一人彼の傍に神将がいるのだろうか
予想するなら勾陣か朱雀あたりか
ともかく昌浩は近くにいるのだろうがここにはいない
会わずに帰れる可能性はまだ残っている

(どうやって逃げよう)

 晴霞と六合、互いに無言でいること数拍
そろそろ頭に血が昇って気持ち悪くなってきた晴霞の耳朶を
今一番聞きたくない声が叩く
気分の悪さなどは一瞬で忘れ去った
頭に昇った血が自主的に引いていく
この状況は駄目だ
振り払って逃げなければ
なんとしてでも逃げなければ
今彼にだけは絶対に会いたくない―――!

シャン

「それは喩えて願いの如く、弾けるるは儚き泡沫!」

 ぶわりと発生した霊力の気泡が
六合と晴霞を囲ったかと思うと次々に爆発し始める
諦めたと思った矢先の抵抗に驚いたのだろう
力が緩んだ隙に肩から転がり落ち
痛みを堪えて体勢を立て直す
しまったと伸ばされる腕を寸での所で擦り抜け一目散に走り出す


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