少年陰陽師

□第二十七部
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(・・・まずい)

 いつものように準備を済ませて邸を出
いつもの路をいつも通り回っていて
ふといくつか向こう側の路にある気配に気付いた途端
晴霞の顔に焦燥の色が満ちていく
しまった、大事なことがすっかり頭から抜け落ちていた

(昌浩も夜警に出てたんだった)

 今日は良く晴れて星が綺麗だなんて思っていた過去の自分を殴りたい
どうしてこんな大事なことを忘れていたんだろう
いくら広い京の都だからといって
遭遇しないとは限らないじゃないか
どうして今日こちらの方角に来てしまったのか
依頼とはいえあんな風に拒絶した手前
鉢合わせればいいことなんて起こるはずがないのに

折角久々に和らいでいた気分が翼を失った小鳥の如く地面と垂直になって滑空してゆく
幸い彼らはこちらには気付いていないようだ
わざわざ接近する気なんて毛頭無いことだし
今日はもう帰ろう、帰ってゆっくり寝よう

そうひとりごちてくるりと方向転換したそこで
進められるべき爪先は動くことを止めた
仕事は沢山溜まってるし、いきなり倒れるし、会いたくない人の気配感知しちゃうし
本当に最近は運が向いてこない

「よぉ」

 よりにもよって物の怪に出くわすだなんて
つくづく自分には運が向いてこないのだと実感する
しかも悠長にお座りしてやがるこいつ
前々から思ってたけど本性と物の怪で性格違う
絶対に違うって言い切れる自信がある
姿が変われば性格ってここまで変化するものなんだろうか
果てしなく謎である
そして今はとてつもなくどうでもいい話である

「お前昨日はよくも、っておい!」

 物の怪の声が聞こえるか否かの所で回れ右をして全力疾走を開始
これは良くない流れだ
どう考えても良く無さ過ぎる流れだ
今日はもう帰りたいんです
ついさっき帰るって決めたんです
いやもう本当に冗談なんてものは一切抜きで
今日の所は帰らせて下さいお願いします!

「何で逃げるんだ!」

 やはりというかなんというか
律儀にも予想通りに物の怪が追いかけてくる
勿論彼の体重は非常に軽量ということも
身体のつくりが動物に近い形をしていることも
物の怪が人間ではないことも含め
速度で晴霞が物の怪に適うことはありえない
ならばその足を止めてしまえばいい


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