少年陰陽師

□第二十六部
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(えー・・・と、これを敏次殿に渡して、これを塗籠に片付けて、これを暦学に届けて、それから・・・・・)

 翌日の陰陽寮にて
晴霞は忙しなくあっちへ行きこっちへ行きを繰り返していた
座る作業よりも先に移動する作業を大量に任されたので
両の腕いっぱいに荷物を抱え
かなりの重量のある荷物を少しでも早く減らすべく
ひたすら歩き回っているのだが

次から次へと行く先々で似たような仕事を任され
もう結構な間早歩きを続けている
そして今日初めて自分にはそこそこ体力があったのだと自覚した

「敏次殿、お届け物です」

 与えられている仕事を要領よく捌いている敏次に声を掛ければ
紙面から面を上げた敏次が
どこか安堵したような表情を浮かべ軽い挨拶をしてくれる

物忌みが明けたんだねという言葉に短く返答して
二つ三つ小さな言葉を交わした後
届けに来た荷物を渡して
次の場所へ向かおうとすれば
塗籠に片付けに行く予定だったものをごっそりと拐われた

唐突に負担の軽減した状態にたたらを踏めば
敏次が苦笑を滲ませながら支えてくれる
お礼より先に謝罪を述べて
やはりこの人はいい人だと思った
物の怪も物の怪だ
何もあそこまで言わずともよいだろうに

「これらは片付ける物かい?」

 抱えた物を軽く持ち上げて訊ねられたので
持っていかれたことに戸惑いつつも
晴霞は肯定の意を示す
どうやら敏次が欲していたのは肯定であったらしく
満足そうに一つ頷くと
ふっと申し訳なさそうに表情を崩す

「すまないが、私に預けてもらえないだろうか?丁度必要になっていたところだったんだ」

 え、と返答に詰まった晴霞が
答えを探すように視線をさ迷わせていると
偶然敏次が作業している机が視界に映り込むが
然り気無く敏次が机を後ろに隠される

ちらと上にある顔を見上げてみて
確証はないがまぁ大丈夫だろうと思えたので
では後はお願いしますと伝えたら
にこやかに礼を述べられ
無理はしないようにとの言葉付きで送り出された

「全く、物忌みも明けたばかりだろうに」

 紙という物は重なれば重なるほど
見た目よりも重くなっていくものだ
実際手にしている紙の束はずしりと重く
これの三倍の量を抱えていたうではさぞ痛かったろう
敏次が持っている量を急に持って行かれたくらいで
大きく均衡を崩していたくらいだ

多少なりとも負担が減っていればそれでいいのだが
そもそもされるがままの晴霞も晴霞だと呆れつつ
受け取った資料を戻しに向かった


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