少年陰陽師

□第二十四部
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「思ったよりは遅かったかな」

 霧のように立ち籠める障気の中から
全くの普段通りに晴霞が姿を現した
晴霞の愛用している鈴は右手に
しかし普段空いている左手には
いかにも切れ味の良さそうな短刀が握られている

堂々とした立ち姿
更には短刀の刃をひらめかせている晴霞に
昌浩は一瞬引きそうになった片足を押し留める

「譲刃、今すぐ式と障気を止めるんだ」

 現段階での昌浩の状況は不利
晴霞の正確な力量も知らなければ
薄れたとはいえ瘴気も漂っている
口内に溜まる固唾を燕下して
昌浩は佇む少女に対し強気で言い放つ

今日の課題達成はきっと晴霞を見付けること
こうして面と向かって言うだけで晴霞は異形を収めてくれるだろう
だが、どうにも嫌な予感が拭いきれない
消えて欲しい考えだけが
昌浩の中で渦巻いている

「じゃあ、昌浩」

 無表情のまま佇んでいた晴霞が
いつもよりは静かめに口を開くと
左手に持っていた短刀を
軽い仕草で昌浩の足下へと突き立てた

反射で身構えた昌浩に
視ている者の眼を惹くような微笑みを唇に乗せ

「私が貴方に手を掛ける前に、それを私の首に添えてみせて」

 昌浩が凍りつく言葉を言い放った

「昌浩ができれば式も瘴気も止めてあげる。でも昌浩がもしできなかったら・・・」

 地に足を縫いつけられたように動きを止めた昌浩に見えるよう
晴霞は右手をゆっくりと持ち上げながら
昌浩の危機感を煽るような言葉を突きつける
右手が完全に胸の高さまで到達した時

シャン

「この手は汝を絡め、消し去り、根幹を掻き回す手」

 霊力によって形作られた手が昌浩へと飛来していく
微動だにしなかった昌浩が
放たれた霊力にはっと我に返ると
地を蹴ることにより手を躱す
目標から大きく逸れた手は
地面と衝突することで
形を保ちきれずに弾けて消えた


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