少年陰陽師

□第二十四部
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「謹んで勧請し奉る!オンキリキリバザラバジリウンハッタ!」

 ぱしんという乾いた音がして
不可視の障壁が一つ破れ去る
しかしまたすぐに新たな障壁にぶつかった

障壁を取り除くたびに瘴気が濃くなっていく気がするのは
恐らく術者が近くなっていく証なのだろう
どんどんと近付く瘴気の発生場所は
依然として瘴気を吐き出し続けている

「タラマトタテマヤウンタラタカンマン!」

 障壁は破る事に堅さと厚さを増していく
けれどもそれに比例して掴めてくるのは
他ならぬ晴霞の気配なのである

今日の異形は晴霞を見付け次第止めてくれるだろう
きっとそうだ、そうに違いない
晴霞と事を交えるつもりは毛程も無いからと
ひしひしと感じる嫌な予感は頭の中から追い払って
再び剣印を構える

「ナウマクサンマンダバザラダンカン!」

 数えて五つ目の障壁が砕け散ると
ぶわりと溢れ出した瘴気が頬を撫ぜる
身に纏わりつく瘴気の圧倒的な濃さに
氷の手がうなじをするりと撫で上げた
ぐらりと襲う眩暈にくずおれそうになるのを何とか持ちこたえ
苦しげに細められた眼を前へと向けた

粘りけを持っているような空気は重く
すんなりと喉を通らずにつかえ
まるで生きているかのようにぞろりと蠢いた
苦しい、息がしづらい
流石に多少なりとも瘴気を祓わなければ動けなくなりそうだ

「諸々の禍事罪穢れ、全てを源へ還り給え」

 周囲の瘴気があらかた祓われ
全身に掛かっていた重みが軽減され
喉につかえていた空気が蠢くのを止め
肺に落ちていくのが感じられる

数回呼吸を落ち着かせた昌浩が
どす黒い瘴気の中を歩き出して少しすると
あまりにも充満している瘴気に
狩衣の袖を口元に当て眉根を寄せる

濃度の高い瘴気の所為で
いまいち晴霞の居所が掴めないのだ

(・・・仕方ない)

 危険ではあるものの、こういう場合は勘を信じるに限る
下手に慣れていない事に手を出して余計こんがらがるくらいなら
勘を信じて進む方がよっぽど信憑性がある
半人前であろうとなかろうと
昌浩だって紛れもない陰陽師の端くれなのだ

「えー・・・と、こっちか!」


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