少年陰陽師

□第二十三部
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「えらく大胆な行動に出たな」

結界を張ってふうと息を一つ吐き
血文字を綴った符の中にいるモノを出すため
準備を始めた背中に掛かった冷ややかな声に視線を上げれば

物の怪が晴霞を睨み付けるように見下ろしてきていた
顰めるように細められている大きな眼は
符と晴霞を汚らわしいモノとして認識しているように取れる

「もうばれてるから、今更隠しても意味がないと思うし」

 落ちている小枝を拾って路に陣を敷き
懐から布にくるまれた針を数本抜き出し
陣を八角形に囲むように針を地面に突き刺す

中央に符を置いて陣から出
くるりと身を翻して符と向き合い
鈴を帯に挟んで柏手を一つ響かせる
すると、見えづらかった線から燐光が発せられ
暗闇にぼうと陣の姿が浮かび上がった

「十二神将騰蛇」

 その燐光を身に浴びながら
晴霞はこちらを見下ろす物の怪に視線を滑らせると
気付いた物の怪がごく自然に身構える
見ただけでこうなるのは少々複雑な気もするが
警戒されていないよりはされている方が良い

そうしていれば相手も安易にこちらには踏み込んでは来ないだろうから
これ以上親しくなりたくないならば
何よりもまず現状維持が望ましい

「早く戻らないと昌浩が心配してるよ」

 言われた物の怪が昌浩のいる方向に顔を向けると
確かに物の怪を探しているだろう声が聞こえる
早々に戻らねばこちらまで来てしまいそうだ
晴霞の言った見境がないという言葉も気に掛かる

「昌浩に何かあったらわかってるだろうな」

 去り際に言葉を置いていった物の怪は
軽く跳躍して昌浩の元へ戻っていく
長い尾の先が完全に闇に溶けたところで
せき止めていた霊力を陣に流し込む

淡かった光が刻一刻と強さを増す中で
自嘲気味な笑みが唇に乗せられる
もしも彼が怪我をしたのなら
もしかしたらもう二度と会えなくなるかもしれない

「・・・流石に、それは嫌だなぁ」

 関係はあまり持ちたくない
持ちたくはないが
今ある関係は持続させていきたいのが本音であって

矛盾

それは届く事なき望みごとであり我が儘であり
自分が自分で拒んでいるなら、尚更のことだろう

「オン」

 制御するための術と解除するための術
二つの事を同時に進行させるには
想定以上の痛みがかかってきていた


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