少年陰陽師

□第二十三部
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「もっくーん、もっくんやーい」

 呼んでも呼んでも
結界に区切られた世界の中に物の怪の姿が浮かび上がらない
気配を探ろうにも結界の力があまりにも充満しすぎていて
気配そのものが完全に紛れてしまい
昌浩には判別が付かなくなっている
もっくんと呼んで反応がないならば次の手だ

「物の怪ぇぇぇええ!」

 深く深く思いっきり吸い込んだ空気を
肺が空になるほどの勢いで
腹の底から物の怪を呼んだ

「だぁれが物の怪だ!晴明の孫!」

ゴッ

「いっだっ!」

 真夜中だというに物の怪と叫んだ昌浩の頭を
重たい衝撃が襲いかかる
情けない声が口から飛び出て
転ぶとまでは行かなかったが
姿勢は大きく傾きたたらを踏む

くわんくわんと落ち着かない頭を抱えた昌浩の前に
さも当然のように降り立った物の怪の姿を
恨みを籠めた眼差しで強く睨み付ける

「孫言うなもっくんっ!全く何処行、って」

 感覚の戻ってきた頭からゆっくりと手が離れる
文句を言おうとした口は半開きのままとなり
前触れもなく走った寒気の正体を探らんと周りを見詰めるも
急激に冷えて張りつめた空気に息を詰め
ただ嫌そうに眉を顰めるばかり

「何か、凄く嫌なのが来そう、なんだけど」

 何だか妙に肌が粟立つ
結界が張られてから気付かぬうちに空気が冷やされていたらしく
今の服装では肌寒いくらいだ
それにこのどこからか漂ってくる瘴気
嫌な予感がひしひしとするが
原因がわからないので対処のしようがない

パシンッ

 緊張している昌浩の耳朶を
柏手の重い音が叩く
音の波紋が広がるのに乗じて
ぶわりと空気中に溢れるおぞましい瘴気
無意識に腕をさすれば布越しにも冷えているのがわかる

これは怖い?苦しい?寂しい?
地面から這い上がってくるような瘴気は
様々な負の感情を昌浩に訴えてきている

「我が望み申したのは、汝の固定」

 いつもは清廉な空気を広げていた声が
今は重くのしかかるような呪いを広げていく
何が来るのかと固唾を呑む昌浩の横で
物の怪と六合は何処か遠くを眺めていた


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