少年陰陽師

□第二十一部
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――――― シャン

 足下に在るのは水を湛えた黒い水盆
鈴を振るたびに着替えた浴衣の袖が揺れて
月によって映された影を揺らめかせる
金色の鈴が淡い月光を反射して
術の効果を引き上げていく

「天の鏡に地の鏡、明を映すは天の鏡」

 シャン

「天の鏡に地の鏡、暗を映すは地の鏡」

 シャン

「我が望は現の真、これはどちらが映す鏡か」

 シャン

 平面を保っている水鏡に映る月は中央に位置している
繰り返し響き残っては消えていく音を全て聞き漏らさぬように
静かに瞼を降ろして術に集中する

等間隔に広げていく鈴の音が
結んだ検印に絡みつく
暫く唄を詠み鈴を降り続けていれば
何も干渉していない筈の水面がひとりでに波紋を生じ始めた

「我の望む現の真、それを映すは地の鏡」

 シャン

「明と暗を取り込み反射し」

 シャン

 波紋を生じさせつつも決して乱れることはない水鏡に
晴霞は水晶を一つ置く
球体に削られた小さな水晶が水鏡に触れると
水晶が生み出した波紋が広がり
それ以外の一切の揺れが水晶の波紋に消されていく

水晶が完全に水盆の底に沈んだ時には
確かな風が吹いているにも関わらず
水鏡は見事な水平を取り戻していた

「我の望む現の真を、今此処に映し示せ」

 シャ・・・・・・…――― バチッ

「いつっ!」

 最後の音を振り降ろさんとした指に
唐突な電流のようなものが走り
持っていた鈴を地面に落とした
例えるならば、どこぞの強固な結界に触れたかのような
拒絶の性質からくる強い痛み


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