少年陰陽師

□第二十一部
4ページ/5ページ



シャン

「天の鏡に地の鏡、明を映すは天の鏡・・・」

 鈴を振り、唄を詠み、水晶玉を水に沈めると
晴霞は唄を詠むことを止め
月を見上げるとゆっくりと瞼を閉じて
何回か深呼吸を繰り返す
閉じた時と同じようにゆっくりと瞼を上げて
鈴の輪に月の光を通した

「我の望む現の真を、今此処に映し示せ」

 シャ―――――…・・・・・・ン

 一際大きく振り下ろした鈴が
澄みきった音を結界内に響き渡らせる
長く長く、広がる音は夜の空に溶け
余韻を残して聞こえなくなっていく

(よかった、成功した)

 音が消えて間もなく
月から水盆へと視線を落とした晴霞は
ひとまず妨害されなかったことにほっとしたのか
やんわりと緩めた表情を
一瞬にして引き締めた
鏡に映った結果が
正直すぐには信じられないことだったから

(入内してる姫が、彰子姫とは腹違いの姉妹?)

 次々と断片的に映される情報は
即座に纏めるとそう示している
水平の状態と波紋に揺れる状態を繰り返しながら
水鏡は情報を晴霞に与え続けていく

「しょう・・・し・・・、章子、藤原章子?」

 言葉に表せば実に支離滅裂になることだろう情報を
どうにかこうにか人の認識できるものして呟く
するとそれを要とでもしたように
恐らくは藤原道長が隠したかったであろうコトガラが
晴霞の頭の中のみで確かな形を持って構成されていく
何があろうとも隠すはずだっただろう情報の全てを
水鏡は情け容赦なく映し出していく

(成る程)

 今回の仕事を全て終えた水鏡にはもう夜空しか映っていない
水鏡に映っていた月は水面が波打つことによって形を留められず
ゆらゆらと不安定に形を変えるのみだ

(そういうこと)

 晴明達の隠していた藤花の本当の身分は
引っかかっていた通りに上流貴族のそれだった
大分前、探し出そうと動き回ったが見付けられなかった異邦の妖異
晴霞が見付けられなかった頭を討ったのは昌浩だった
入内し一条天皇に嫁いだと思われていた藤原の一の姫は
藤花とは腹違いの姉妹である章子姫だった


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ