少年陰陽師

□第二十一部
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(・・・まさか)

 安倍の邸に入った時期は中宮の入内した時期とまるきり被っていて
仕草は上流貴族のそれに思え
しかも中宮と同じ年頃で
微かに憶えているあの子と藤花
面差しがとても良く似ているのは晴霞の気のせいなのか

「藤花、藤の花、藤の、花・・・?」

 もやもやとした感覚を抱きながら邸にいた彼女の名を呟けば
それが簡単な意味を持ち合わせているのではと勘ぐった
藤は藤原、花は姫
そう意味を宛がうなら、藤花とは藤原の姫ということだろうか
藤原の姓を持ち、姫と呼ばれ、あの年頃の者を
晴霞はこの世に存在を一つしか知らない
中宮として天皇に嫁いだ、藤原彰子姫だ

(どうしよう、違和感が全部片付いていく・・・!)

 晴霞の思考が急速に回転を始める
彼女は自分にどうして安倍の邸に来たと言っていたか
呪詛を受けたと言っていなかったか
それはとても強い呪詛で、深く根付いてしまったものだと
だから陰陽師に呪詛を抑えて貰わなければならないのかと
晴霞は勝手に自己完結して納得して
深く詮索はしなかったのだが

以前、異邦の妖異が平安京にて暴れていた期間中に
藤原の邸が在ろう場所あたりに
強大な妖気が現れたことがあった
貴船に異常が発生していた時期も丁度その時期だ

晴霞が一人探していた頭の妖異を祓う前に
何者かによって異邦の妖異共は平安京から姿を消したが
もし、あの時の頭が一の姫である彼女の霊力を狙い
呪詛を植え付けたのだとしたら?
根付いてしまったその呪詛を抑えるために
安倍の邸に居候しているんだとしたら?

(藤花の本名は藤原彰子?入内したはずの中宮?)

 わからなくなってきた
もし彰子姫が安倍に身を置いているのなら
入内したのは何処の誰だ
恐らくは仕えていた数人の女房達も一緒に行っただろうし
その者達の眼を欺けるほど彰子姫と瓜二つの人物が
果たして存在しているのか

(こっちを探るのが先!)

 思い立ったが吉日だ
また晴明に妨害されない内に
さっさと終わらせてしまわなければ
占によって何も得られないのだけは御免被りたい次第である

水盆に満たしていた水を処理し
使用した水盆と水晶を清めると
再び水盆に清い水を湛えさせ
先程と同じ位置に水盆を据え置く
手順は最初からやり直しだが
結果が得られるのなら文句は言うまい


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