少年陰陽師

□第二十一部
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「・・・これって」

 先程の力がまだ残っているのか
痛まない程度に痺れを帯びている手を
晴霞は何を言うわけでもなくただじっと見詰めている
じんわりとした痺れの原因であるあの力と
最近身近にあった力がよく似通っていたからだった

(藤花の身分はそんなに隠したいことなの?)

 鏡に映したかったのは前々から気に掛かっていた
安倍邸にいる藤花姫の本当の身分
彼女はあの邸に半永久的に居候している身だと聞いた
晴霞が本人から聞いた話ではあるが
聞かなくても薄々勘づいてはいた気がする

何せ、あんなに皆から大事にされていたのだ
誰から見ても安倍の者でないことは明らかだろう
一応理由も尋ねたには尋ねたが
濁されて終わってしまったのである

「・・・でもなぁ」

 好奇心という欲望は非常に厄介だと思うことが多々ある
今行っている占いを続けようとするこの気持ちもそうだ
彼女が時折見せる仕草が気に掛かっている
それが何となく上流貴族のするそれに見えてしまって
もう癖であろうその仕草が妙に眼について
気になって仕方がないだけなのだから

安倍にいる理由が理由なのだろうから
上流貴族の者であっても特に気には留めない筈なのに
彼女の仕草が上流の者の中でも
さらに上流の者の仕草だったからかもしれない
そう、例えて言うなれば、今最も栄えている藤原道長に近しいような
三流貴族にはない洗礼された上品な仕草

(余計に気になるし、それに)

 いくつの頃だったか
珍しく叔父に連れられていった大きな邸で
同い年くらいのお姫様と遊んだことがあった
あの時は互いに名を教え合わず
周りの者から一の姫と呼ばれていたことから
あの子がどこの誰かわかりはしないが
顔なら今でもはっきりとまではいかないが憶えている
邸の場所は、今の藤原道長の邸に近かったかと思う

道長の一の姫の名は彰子と言ったか
彼女は既に天皇に嫁いで中宮となっている
歳は確か晴霞と同じくらいではなかったか
丁度安倍の邸にいる彼女とも同じくらいの


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