少年陰陽師

□第十九部
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「・・・疲れた」

 簀子でぐったりと倒れ込んでいる晴霞は
誰もいないのを知りながらそうひとりごちた
ほどよく手入れされた庭には大きな御座が何枚も敷かれていて
その上には邸にある風を通さねばならない物が
実に所狭しと並べられている

書物に始まり調度品や仕事に必要な道具の数々が
久々にゆったりと風に当たる様を眺めながら
晴霞は疲れた身体を日光に癒してもらおうと
ごろんと仰向けに寝転がる

春の温かな日差しに自然と息が抜ける
風も温か過ぎず冷た過ぎずで丁度良い
最近はよその邸で寝泊まりをしていかせいか
身体は十分に休めていなかったらしい
ちゃんと眠っている筈なのに睡魔が襲ってくる

(少し、寝ておこうかな・‥)

 今更抗う必要もなかろうと無意識に判断したのか
晴霞の瞼がゆるゆると降下し始める
ごろりと寝返りを打って
眠りの淵に意識を沈めてしまおうとした瞬間
突如してざわりと沸き上がった気持ち悪さが
全てを現実へと引きずり込んだ

(誰!?)

 がばりと跳ね起きて邸の周囲に探りを入れる
誰かが結界に触れてきた
それは徒人ではなく力を持っていて
数は一人じゃない、三人というところだろう
何の用があって訪れたのかは知らないが
自分以外誰もいない邸を見られるのはまずい
とにかく非常にまずい

シャン

「今は無きモノを写して生けるは誰の夢か、そなたの夢か、それとも、我の夢か」

 鈴を振れば邸の至る所に人が現れる
一人は叔父に似せた母を
一人は己に似せた妹と弟を
他には叔父の邸にいた一部の人々を
これは式ではない
かといって幻術ではない
一重に、記憶だ

晴霞が持ちうる記憶を写した、夢
母は叔父の奥方を
妹と弟には叔父の子供達を
それぞれの人たちに
それぞれの記憶と形を当て嵌めた

晴霞に母の記憶はない
晴霞に兄弟は存在しない
晴霞の邸に人は存在しない
あるのは
人の場所にあって、自分の場所にはない
記憶とそれに対する思いだけ
温もりと香りのない
がらんどうの邸だけ

「現に視る夢こそが、我の望む現か」

 形を持った夢をこの場に固定する
不安定では何もないことがばれてしまう
一人ぼっちなのが、ばれてしまう
今まで気張っていた意味が
水泡と帰して消えてしまう
それでは駄目なのだ
ここには一人で居ないと
自分に約束したんだ
だから、だから・・・

「・・・誰かと思ったら昌浩か」

 隠し通さなきゃ


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