少年陰陽師

□第十八部
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「少しの間でしたが、お世話になりました」

 まだ日が昇って間もない早朝の門前で
晴霞は晴明に深々と頭を下げる
邸の者を起こさぬように出て行こうとした晴霞を捕まえたのは
ここにいる晴明本人だった
捕まった時にまだ明日があると問われたが
邸の様子が心配だと答えれば
晴明は納得してわざわざ見送りにまで来てくれたのである

「皆さんには何も言っておりませんので、ご迷惑をおかけするやもしれませんが」

 晴霞は今自分で荷物を持っている
軽い物ばかりなので自分一人で全て持っているが
昌浩がいたら荷物をかっさらわれた上持っていくとか言い出しそうだし
彰子もついていくとか言いそうな気がする
そうなることは是非ともさけたい

「では、皆には私から言っておきますので、ご心配なく」

 晴霞の心配に晴明が答えると
よほどそのことを思案していたのだろう
表情がふっと和らいだのが見て取れる
そのまま二言三言言葉を交わし
晴霞は邸に帰ろうと踵を返した

「譲刃殿」

 日光の眩しい中を歩いていると
少し距離の空いた門から呼ばれた
何か言い忘れたことでもあったのだろうかと振り返る

「また、暇な日にでも遊びに来て下さい」

 門の向こうで晴明が笑っていた
安倍の邸にいる間何度も見かけた彼が末の孫に向ける
あの柔らかい笑顔を

心臓がぎゅっとなった気がする
どこか切ない感覚を憶えている自分に少し眼を瞠り
ふっと眩しげに瞳を細める
真一文に結んだ口元を見られないように
深い礼を一つ残して
朝陽が差し込める中己の邸へと帰っていった


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