少年陰陽師

□第十八部
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「じいさま、失礼します」

 返事も待たずに晴明の部屋へと入れば
文字を綴っている晴明は昌浩の方へと首を巡らせて
僅かに眼を見開くが
すぐにいつもの表情へと戻すと
座りなさいとでも言うように昌浩の円座を用意して
自分はもとの座っていた場所に戻る

「聞きたいのは譲刃殿の邸の場所か?」

 確かにその情報も欲しかったが
昌浩はその問いに首を横に振って否定を表す
聞きたいのはそのことじゃない
関連してはいるが別のことだ

「譲刃が帰る時どうして起こしてくれなかったんですか」

 聞きたいのはそっちかと晴明は微笑する
どうやらこの孫は今は此処にいない少女と
もう少し一緒に遊びたかったらしい
きっと彰子もそうだろうが
なんせ昌浩の方が忙しかったものだから
過ごした時間は彰子よりもずっと短い
だからせめて見送りはしたかったのだろう
これからは顔を合わせる時間も殆どなくなるだろうから
なるほど、昌浩は晴明が思っているよりも
晴霞のことを気に入っているらしかった

「そうじゃなぁ、それは悪かったのぅ」

 頬を綻ばせれば晴明の顔に刻まれている皺が深くなった
何を笑っているのかと問いつめてきそうな雰囲気の孫にやれやれと肩をすくめ
昌浩に遅れて入ってきた物の怪を呼び寄せると
ぼそぼそとした小さな声で通りの名を教えると
頼んだとでも言うように頭を撫でる

「昌浩や」

 物の怪が昌浩の元へ歩いている間にと
晴明が昌浩の名を呼べば
先程から仏頂面の昌浩の表情が
僅かに普段の子供らしい表情へと戻る
晴霞に邸の場所は教えるなとは言われていない

それと何も言わずいつの間にか居なくなることが
自分を好ましく思っている人物にどの程度堪えるかというのと
その後どうなるか知っておいてもらわないと
彼女はまた同じ事を繰り返しそうだ
さよならを言わないのは無礼なことだと教えてやらねば

「紅蓮に邸の場所を教えておいた。今日は出仕が休みだったじゃろう、行って文句でも伝えてきなさい」

 きょとんとした様子の昌浩の顔に
徐々に喜びの色が広がっていく
隣にいる物の怪を素早く抱え込むと
ありがとうございましたと言い置いて
煩い足音を立てながら走り出していく


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