少年陰陽師

□第十八部
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「昌浩、もう朝よ、昌浩」

 自分を呼ぶ声にゆるゆると瞼を開ければ
部屋に満ちる眩しい朝日が瞳をさす
まだ眠いのと眩しいのが相まって
上体を起こしてからも何度か瞬きを繰り返していれば
彰子が何も話してこないことに気が付く
寝ぼけ眼で彰子を見てみれば
いつも明るい彼女がしゅんと落ち込んでいる
珍しい、何かあったのだろうか

「・・・譲刃が」

 譲刃?何故今晴霞の名前が出てきたのだろう
この邸に滞在している彼女と彰子は仲が良い
彰子が落ち込んでいると言うことは喧嘩でもしたとか
露樹か晴明の手伝いで忙しくて構ってくれないとか
完全に覚醒していない頭で考えられるのはそんな小さな事ばかり

「譲刃がどうかした?」

「いないの、どこにも」

 寝惚けていた頭が一時停止した
かたことというか何というか
少し聞こえづらかったので
黙っていたらもう一度言ってくれるかと小さな期待を抱き
眼を擦るのを止めて彰子の口が開くのを待つ

「いつもは朝一番におはようって言ってくれたのに、どこをを探しても居ないの」

 出かけているのではないかと思ったが
晴霞にこんな早朝に出かける理由もないだろう
露樹は昼間ぐらいにしか手伝いを頼まないし
晴明の遣いも夜中の内に終わらせているようだ
隠れているというのも外れた考えだろう
なら彼女はどこに行ったというのだ

「あいつなら今朝方帰って行ったぞ」

 何食わぬ顔で昌浩の元まで歩いてきた物の怪が
今一番欲しい情報を何ともさらっと告げてくれた
ふさふさとした尾を左右に揺らす物の怪を前に
昌浩と彰子は僅かに呆然とした後
はっとした彰子が、がばりと物の怪の前に座り込んでその真正面を位置取る

「もっくんそれ本当!?」

 いきなり話に食いついてきた彰子に気圧されたのだろう
ただでさえ大きな夕焼け色がさらに大きく見え
背筋も少し仰け反っているように思える
彰子の反応に対して昌浩はどちらかと言えば落ち着いており
茵から起きあがるなり手早く身支度を調え始めた
どうやら行きたい場所ができたらしい
物の怪と彰子の横を通り過ぎて向かう先は
多分晴霞の居場所を知っているだろう人の元


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