少年陰陽師

□第十七部
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 地面の色は一面の白に近い桃色
風が吹かずとも枝から離れ行く淡い色は
以前来たときよりも確実に数を減らしている
大きく広がる枝には申し訳程度にしか花が残っておらず
気高く咲き誇る桜は散ってしまった

最後の最後まで尚美しく己を魅せる桜の中で
一枚の式を閉じこめた符を月明かりに高く掲げる
体勢を変えないまま口の中で呪を唱えれば
指の間からするりと地面に落ちた符から
弾けるようにして異形が姿を現した

短くも鋭利な鉤爪と小柄な体躯
さらには移動速度のすこぶる速いこの異形には
晴霞自身も随分と手を焼かされた
今でも残るあの時の傷の痛みは
身の深くにあるものと同化して
しぶとく存在を主張している

今日まで昌浩は怪我という怪我は作っていない
出来れば負ってほしくないものだ
あくまでこれは修行の一環
負傷させることを目的としてはいないのだから

「昌浩の元へ」

 異形を元に創った式に命じれば
大きな翼をばさりと広げて
曇りがちの夜空へと飛び上がって行く
鷲の姿を持った式の姿はすぐに紛れてわからなくなってしまった

式を放ったのはこれで六回目
手元には次の式は居ない
ということは明日が最後の物忌みの日だ
今日帰ったら少ない荷物をまとめなければ
明日は早い内に安倍の邸を出なければならないのだから


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