少年陰陽師

□第十六部
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「孫言わないで・・・」

 我が身の失態を嘆くように額に手を当てて
思っていたよりも己の手が冷えていたお陰か
晴霞の脳内に雑鬼の他にも視たものが浮かぶ
真っ先に声を掛けてきたのが雑鬼だからわからなかった
よく見る雑鬼三匹が乗り込んでいる牛車を
うっかりと見逃していたことを思い出す

その上よくよく見れば牛車は小刻みに震えていて
轅の部分には本来其処にはないと思われる
不思議なふくらみのようなものがあり
回り込んでふくらみを確認してみれば
文字通りに眼が点となった

「妖車・・・?」

 轅にあったふくらみは鬼の顔だった
徒人であれば見た瞬間腰を抜かしてしまいそうな
恐ろしいとも取れる大きな鬼の顔

そう、きっと、恐ろしいのだ
いや鬼の顔が、じゃなくて
晴霞が

「えー・・・、と」

 がたがたと震えているのは牛車で
泣いているのは鬼の顔で
怖がられているのは晴霞の方で?
・・・何だか、物凄く納得がいかないのは
晴霞の思い違いじゃないと願いたい

困惑混じりの溜息を吐いてから気付いた
この妖車からは妖気というものが感じ取れない
発しているのは乗っている雑鬼の微弱なものが全てで
そのかわりとでも言うように感じ取れるのは
紛れもない出会い頭にぶつかった人の霊気

「昌浩の、式?」

 昌浩には確か式が一匹だけいる
という話を以前本人から聞いた気がする
細い記憶の糸を辿ってみれば
式の名は確か車之輔とか
いったようないわなかったような


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