少年陰陽師

□第十六部
2ページ/5ページ



“ギャアアアアアアアアア!”

 嫌なほど耳の奥に響く声を挙げて
妖はその場から浄化された
肩の高さまで上げていた手をすっと降ろして
未だ木霊する声を払うように頭を振る

シャン

 清冽な鈴の音が放たれて
残っている障気を一掃する
やっと深く息を吸い込んで
空を見上げればもう陽は山の向こう側に沈んでしまっている

山際に残る色濃い紅を
まるで眼に焼き付けるかのように見詰め
ふいと目を逸らして走り出す
草履が砂を鳴らす音に耳を傾けつつ
晴霞は安倍の邸への路を急いでいた

早く帰らないと露樹の夕餉の支度も手伝わなければならないし
それにまた彰子が心配して
彰子の傍に控えている神将に睨まれる
晴霞はいまのところの神将との関係は現状維持を望んでいる
夕焼けをみて思い出した
あの物の怪との関係もだ

ガタタッ

「ん?」

 三条の戻り橋を駆け足で渡ろうとすれば
牛車が揺れる音が聞こえた気がした
何故こんな場所で牛車の音がするのだろう
周りを見ても牛車どころか人っ子一人見当たらない
不思議に思って首を傾げてみれば
何やらよく知っている気配を感じ取って
まさかと思った晴霞は橋の下に降りてみる

「あ!孫じゃないか!」

「どうしたんだこんな所で」

「しかもそんな呆けた顔して」

 橋の下に降りてみて
目に見えてわかる程晴霞は肩を落とした
まさか橋の下に雑鬼がいるとは誰も思うまい


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ