少年陰陽師

□第十五部
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シャン

「碧深き翠の樹々よ、壁を創りして我を護りたまえ!」

地面から一斉に生えた蔓や枝が絡み合って壁を作り上げ
見た目よりも遥かに丈夫な木々のおかげで
飛来してきた気の塊を防ぐことができた

今晴霞の間近くには地面の大きくへこんでいる場があり
荷物を放り出さずに避けられたのは奇跡とも呼んでも過言ではなかろう
抱えていた荷物は現在路の端に被害を被らないように避けてある
安倍の邸に持ち帰るものだから
正直結界を張りたい気持ちは山々なのだが
張ったところで結界の維持に気を持っていかれるだけ
危険性が増すことこの上ないのが現実である

(よし、この近くに人はいないと)

 しゃらんと鳴く鈴を持ち直して
晴霞は確かな恐怖をおくびも出さず異形と対峙する
ずきりと脇腹の傷が脈動し痛みを引きずり出す
まるで傷が異形から退却するよう促しているようだ
しかしここで引き下がるわけにはいかない
目前の危険が都を荒らさないという保証は誰からも得られないからだ

シャン

「蒼き風は吹き荒れ刃とならん!」

 轟と音を立てて風が吹き荒れる
舞い上がる細かな砂塵が容赦なく皮膚を叩き
風鳴りが完全に聴覚を支配する
砂が入らぬよう細まる両の眼には
たしかに異形の身に傷が刻まれる様を映す

少ししてふわりと風が止んだ
息遣いも荒く佇んでいれば
風の凪いだ其処には確かに異形が晴霞と同じように
否、全くといって異なる様に
傷だらけの身で佇んでいる
ずきずきと傷の脈動が続き、痛みは脇腹だけでなく
腰にまでじわじわと範囲を広げてゆく


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