少年陰陽師

□第十五部
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「つっ」

 不意に、剣印を作っている指に
痺れを通り越して痛みが走った
小さな呻き声を唇から零せば
さらに強い痛みが剣印と鈴を持っている手に響き
後を引き摺るような感覚に晴霞はまさかと眼を瞠る

(破られる・・・っ!?)

パシンッ!

 落ち着けようとしていた息をはっと吸い込んだ瞬間
鈴が何かの力によって手の内から弾かれた
異形を縛っていた力が跳ね返され
鈴を持っていた腕に引っ掻いたような傷が生じる

これはまずいと思ったのも束の間
気を抜いていた剣印にも同じ様な力が作用し
結んでいた剣印がほどかれた

「しまっ───」

 喉の奥から完全に音が外へと放たれる前に
晴霞の身体が見えない何かによって後方へと弾かれた
現状の対処を考える間もなく
背中をどこぞの邸の塀に強かに打ち付けられ
与えられた衝撃によって息が詰まった

そのまま地面に崩れ落ちれば
つい先程まで晴霞が立っていた場所に
還元された筈の異形が佇んでいる
動かなければ最悪の結末が待っているというのに
身体は意思に反して動こうとしない
軋むような動作で鈴を探せば
朧げな視界の中、遠い場所に落ちているのが視認できた

砂を鳴らしながら手を伸ばせど鈴には到底届かない
取りに行こうにも身体は動いてくれなくて
どうにもならない悔しさを力の込もらない顎で噛み締める

「ぁ・・・・・!」

 僅かな音が息の代わりに漏れた直後
倒れていた身体は遥か上空にあった
内腑からせり上がってきた鉄の味を外へと吐き出して
視界いっぱいに広がる空の色に眼を細め
晴霞は何故自分が浮いているか刹那の間に理解した
異形に、身を空へと弾かれたのだ


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