少年陰陽師
□第十四部
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「失礼します、晴明様」
控えめに戸を開けて
晴霞は少しだけ部屋の中に入り膝を床に着ける
やはりここは他の部屋とは空気が違う
神将が居ることもあるのだろうが
晴明自身が何か仕掛けをしているのであろう
「どうかしましたか?譲刃殿」
庭を眺めていた老人がゆるりとこちらを振り返る
目があった拍子に神将の厳しい気配を一気に感じたが
気にしていればキリがないので無視しておくことにする
「今から市に行こうと思うのですが何か入りような物はありますか?」
柔らかな晴明の微笑を見ると
晴霞の頬も自然と緩む
緩んだということは緊張でも解けたのだろうか
無視しているとはいえ無意識に緊張していたのかもしれない
「そうですね、では墨を少し頼んでもよろしいかな」
少し考えた後に頼まれた物は晴明の生業上欠かせない物だが
これは少し重たいかもしれない
晴霞は一旦邸の様子を見に行こうかとも思っているから
帰り道に買うことになりそうだ
「わかりました。あぁ、それと晴明様」
立ち上がろうとした動作をすっと止めると
晴霞の顔に困ったような色が混ざる
「藤花姫や露樹様と一緒にいる時はともかく。何も外出する時にまで見張りを付けずとも、私は何ももする気はありませんよ」
晴明の扇を持つ手が僅かに緩む
そんな晴明の様子を知ってか知らずか
軽く礼をした晴霞は失礼しましたと言って部屋を出て行った
「まさか気付いていたとはのぅ」
晴霞が部屋から去った後
扇を持ち直した晴明は目元を深く和ませて
ほほっ、笑ったのだった