少年陰陽師

□第十三部
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 その言い回しの仕方には感嘆こそすれ
いきなりこの状況に仕立てられたことは
正直言って戸惑いの材料にしかなりえない
なんだか一人で置いていかれたような気がして
やり切れない感が否めないのだ

「・・・はぁ」

 人知れず溜息を吐いて
晴霞は邸に近づいてくる気配に気づく
これは、昌浩と物の怪の気配だろうか
自分が邸についてからあまり時間は経っていない

帰ってくるのが早いとはあまり思わないが
これからは自分が帰るのを早くしたほうがいいだろう
通ってくる路はしっかりと被っているのだ
鉢合わせないようにしなくては

「藤花、そろそろ昌浩が帰ってきそうだから迎えに行ってあげたら?」

 勾陣と話している彰子に声を掛け
晴霞はにこりと笑む
昌浩の名前を聞いた彰子は勾陣との話を区切ると
玄関へと小走りで向かい
玄武と太陰も彰子に付いていった

彰子達が居なくなった部屋には
当然晴霞と勾陣の二人が残される
何か行動を起こそうかと考えている晴霞の横を
勾陣がさも当たり前のように通り過ぎようとする

「ありがとう」

 咄嗟に礼を述べれば
今丁度出て行こうとした勾陣の足が止まり
昌浩に向けられるのとはまるきり別物の視線が
立っている晴霞を貫いた

にわかにぞっとして勾陣の顔を見上げてみれば
視線はすでに逸らされている
だが、視線の代わりに威圧感がある

 動くことを制された晴霞の微かに見える程度で
勾陣が唇を動かすと
音もなく穏行してしまった

「・・・それが一番・・・かな」

 主のために動く式神の残した残滓を
肌で感じとりながら放たれたそれは
夜明け前の深い暗がりに解けて消えていった


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