少年陰陽師

□第六部
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(よし、塗籠に行かなきゃ)

 片付けを終えた昌浩が
意気揚々と立ち上がる

「何しに行くんだ?調べ物か?」

 足下を歩く物の怪が
夕焼けの瞳で昌浩を見上げる

「調べ物じゃないよ、ちょっと用が在るんだ」

 歩く歩調を早めて
昌浩は塗籠へと急ぐ

「・・・いた」

 塗籠の中には
誰か解らないが一人で黙々と書物を読んでいる者が居た

「用があるって、あいつにか?」

 尋ねてくる物の怪を肩に乗せて
昌浩は塗籠に一歩踏み入れた

「初めまして」

 瞬間、書物を読んでいる人物から
高めの声が発せられた

「安倍昌浩殿」

 その者は書物を棚に戻し
こちらを振り向く
 白い肌、黒く輝く大きな瞳、良く良く聞けば憶えのある澄んだ声
全て、あの少女と同じものだ

「・・・どうして?」

 昌浩は途惑った
確かにあれは少女だった
彰子と同じくらいの年頃の少女だった筈だ
だが、今昌浩の前に立っているのは
直衣を着た“少年”

「どうして、とは何の事でしょう?」

 “彼”は首を傾げて
考えの読めない表情で問うてくる

「名乗っていませんでしたね、私の名は桜宮譲刃と申します」

 礼儀正しく一礼をして
桜宮は昌浩の横を通り過ぎる

「そうそう、余計な詮索は身を滅ぼしますよ」

 通りすぎざま
昌浩にしか聞こえないように
そう小さく呟きながら

「おい、昌浩」

 物の怪が昌浩の名を呼ぶが
反応は一切ない

「何で、君が・・・」

 何だか馬鹿にされたような悔しさと
困惑の色を綯い交ぜにした表情で
昌浩は晴霞の去った方向をじっと見つめていた


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