少年陰陽師

□第五部
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「何故、俺の名前を知ってたの?」

 昌浩の問いに返ってきたのは
鈴を左右に振ったような笑い声だった

「だって、私のいるところでは有名だもの。安倍晴明の孫だって」

 少女がくれた返事に瞼が半分だけ下がる
むっとした感覚が胸中に立ち込めて
少しだけ機嫌が傾いだ気がした

「孫って言われるの嫌なのに、やっぱりそれで広まってるんだ」

 苦虫を噛み潰した様な顔をすれば
少女は気遣うように笑い声を途切れさせた
それでもまだ、抑えきれない笑が転がってきている

「そうだよね、貴方は貴方だもんね」

 笑みが含まれた声は
とても優しい感じがした

「ごめんなさい」

 あまり面識が無いはずの少女に
昌浩はえもいわれぬ懐かしさを憶えた

「君の、名前は?」

 ふと尋ねた昌浩に
少女は息を呑んだようだ

「・・・教えない。・・・でも」

 幾分か堅い返答のあと
少女はまたくすりと笑う

「貴方なら、きっとすぐに解るよ」

 優しい声が耳朶に触れたと思えば
柔らかな温もりが背中から緩やかに失われていく

「またね安倍昌浩殿」

 温もりが背中から完全に離れた時
仄かな霊力の残滓が昌浩の頬をくすぐった後
まるで蛍火が遊ぶように宙を生きて
ほろりとほどけて消えていった



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