少年陰陽師

□第三部
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「譲刃殿、そろそろ帰られては如何かな?」

 塗籠で書物を読んでいる晴霞に
声をかける者があった

「これは成親様、書をお探しですか?」

 書物から顔を上げた晴霞は
近くに立つ成親にやんわりと微笑む

「いや、見かけた後ろ姿を末弟と思ったんだが、近づいてみたら譲刃殿だった訳だ」

 成親はからからと笑いながら
晴霞の背をばしばしと叩く

「成親様の末弟と言えば、昌浩殿のことでしょうか」

 昨夜の少年の姿が浮かんだが
晴霞はそれを頭の中から払拭した

「流石にうちの末弟だな、有名じゃないか」

 優しい眼になる成親を持つ昌浩に
晴霞は羨ましさを抱く

(私には、親兄弟なんて・・・)

 笑顔の裏で
晴霞は寂しさを噛み締めた

「成親様、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

 晴霞の言葉に
成親はさらに目元を和ませる

「答えられる限りなら」

 成親の言葉に
晴霞は礼を述べてから口を開いた

「末弟殿には、夜明け前に出歩く癖がおありですか?」

 晴霞の質問を聞いた成親が
その柔らかな眼差しに
僅かに険しさを滲ませた

(・・・やっぱり)

 あの少年は安倍昌浩と言う名で
ついでに同年齢の直丁らしい


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