時飛ばしの果てに…【萌芽の季】
□第五章《正念場》
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見ると、さっきと同じ頬杖をついたままだが、目に光を輝かせ、口元には微笑を浮かべている。
(何?、あの人…、笑ってるのにこわい…
目が笑ってないよ。)
「総司…、お前さっきも同じ事言ってたよな。
殺せばいいってもんじゃねぇだろうが!!」
(総司…?、沖田総司?)
土方?の呆れた口調の中に聞いた名前に、楓の目が丸くなる。
さっき、井上は何て言ってたっけ?
楓が目を覚ますのを気にしていた≠ニか言ってなかっただろうか?
(これが気にしていた奴の言葉ー!?
なんか、ムカムカしてきた。)
この見知らぬ世界で、自分を少しでも気にかけてくれる人がいる事に、ちょっと嬉しかっただけに、これはイタいし、ムカつく。
チラッと沖田を見ると目が合う。
沖田の口元が意地悪そうにニッと上がる。
キッと睨み返して、フンと顔を背ける。
沖田が少しビックリしたように、目を丸くしたのが視界の端で見えて、ざまーみろと思った。
「おい、お前。」
土方が正面から楓を見据える。
「ここがどこだか、もう薄々分かっているんだろう?
嘘、偽りが俺達に通ると思うな。
正直にてめぇの素性を話せ。」
正直に? 素性?
自分自身がまだ混乱していて、理解出来てないのに、
こんな猜疑心むき出しの人達にどう説明すればいいのか…
でも…、と楓は考える。
確かに作り話をしても、ここにいる人達は騙されないと思う。
『斬っちゃえば』なんて、物騒な事をいうやつもいるところで、薄っぺらいウソが通るとは思えない。
(作り話を捏造できる程、賢くもないしね。)
覚悟決めるか…と口元を引き締めて、正面の3人に向き直った。
沖田の強い視線を感じながら…
「名前は、佐伯 楓です。
平成○年5月16日生まれ、16才。
聖風女子高等学校1年。」
ここまで名乗って一息つく。
そして周りに口を挟まれる前に言葉を続けた。
「私がどうしてここにいるのかは、正直言ってよく分かりません。
日本舞踊のお稽古から家に帰る途中、道に落ちてた光る石を拾ったら、その石が大きな光になって、それに包まれた後は…
さっき、気がつくまでの記憶がありません。」
(私を呼ぶ声を聞いた気がする事は言わなくていいよね?
自分でも本当だったか、言い切れないし…)
「光……ねぇ… 」
沖田がポツリと呟く。
一瞬、土方へチラッと目をやったが、その表情からは何も読み取れない。
「ちょっと待って下さい…」
眼鏡を掛け、神経質そうにそれを押さえながら、近藤?の左側の男が楓の言葉を遮る。
「"へいせい"とはいつの事です?
今は"文久"。
貴方の生まれた年あたりに"へいせい"などという年号はなかったと思いますが…?」
来たよ…
楓はゴクリと生唾を呑んだ。
その音が広間に響き渡ったかと思える。
ここで目を逸らせちゃいけない。
楓は前を見据えながら、口を開く。
「さっき、同じ部屋にいた雪村さんという女の子から、ここが新選組だろうと聞きました。」
楓の"雪村"と"女の子"の言葉に土方の眉がピクリと動いたが、それを不審に思う余裕が、今の楓にはない。
「ここが、私の知っている幕末の新選組だというなら、私はこの後、元治・慶応・明治・大正・昭和・平成と続く、6代先、約150年先の生まれになります。」
楓は周囲の様子を伺うように黙り込んだ。
"未来から来た"…、楓自身が今だ、信じ切れてない事を彼らが信じられるだろうか…?
だが、これが考えられるうちで、一番有り得ないが、事実に近いのだ。