時飛ばしの果てに…【萌芽の季】

□第五章《正念場》
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楓が連れて行かれたのは、20畳ほど広さの板張りの広間。

そこには10人程の男達が、上座と思われる3人の男を囲む様に、思い思いの姿勢で座っていた。

入った途端に注がれる視線。
興味、猜疑、嫌悪、狼狽…
当たり前だが、好意的な物は一つもない。

障子のすぐ右側に、先程千鶴を連れて行った井上がいる。

反対側には3人の男が、それまで談笑していたのをピタリと止め、楓に探りの視線を寄越す。

20代半ばと思われる、大柄な男2人と楓と年があまり変わらなさそうな小柄な少年。

なんかちぐはぐな取り合わせだと楓は思った。


そして、正面にいる3人。

真ん中にいる男。
厳つい顔しているが、穏やかな眼差しをしている。

もし、ここが楓が歴史で習った新選組とするなら、彼が近藤 勇だろうか…

(もしそうなら、両隣のどちらかが土方歳三?)

と何気に見比べる。

(役者のようなイケメンだったって、何かで読んだ気がする。
…どっちもイケメンだけど…、
土方が眼鏡掛けてたってのは聞いた事ないから、右側の鋭い目をした人が土方歳三?
じゃあ、左側は…?)


自分の事を忘れ、ボーッ
と考えていると右奥から痛いくらいの視線を感じた。


そこにいたのは若い男。
立てた右膝に腕を乗せ、頬杖つくように座っている。
無表情だが、油断のない目が楓の様子を伺っている。

射抜くような視線からは何も読み取れず、楓を一気に落ち着かない気分にさせた。


「君は異国の人なのかな?」

正面からの声に楓はハッとする。

近藤と思われる中心の男からの言葉は、これから楓を問い詰めようとしている者とは思えないのんびりしたものだった。

楓を連れて来た男に促され、上座の3人の前に座る。
右斜めからの視線が痛い…

ともすれば、意識が右奥の方へ行きそうになるのを押さえ、正面の3人に向き合う。

「私はこの国の人間です。
ただ、確かに外…異国の血は流れてます。」

「ほう…、親御さんのどちらかが異国の方とか?」

「父方の祖父がカナダ人です。」

「かなだ?」

近藤さん?がその名の国を思いだそうと頭を捻っている。
が、思い当たらないようである。

「…イギリスの属国です。」

「いぎりす?…… おぉ!エゲレスの事かぁ!」

嬉しそうに、ポンと手を叩く近藤さん?は可愛いかも…


すると、左側の眼鏡の男が、そっと眼鏡を抑えながら呟く。

「そうですか… では、貴方がエゲレスの間者という可能性も出てくるわけですね。」


(は? かんじゃ?患者? いやいやいや…)

心の中で、自らのボケに突っ込みを入れる。

(間者って、あのス、スパイっとかいうやつ?私が?)
あまりに想定外の話しに、あんぐりと口を開ける。

「ス、スパ…、間者?、私が?! どうして!?」

「お前についちゃ、わからねぇ事が多すぎんだよ。」


土方歳三と思われる男に楓の反論はバッサリと切られる。

「もう面倒臭いから、斬っちゃいましょうよ。
後々、問題起こされるよりマシでしょう。

と、右奥からとんでもない発言が楓の耳に入って来た。
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