ワンピース
□後日談
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トンテンカン―――
建物の修理の音が響く。
戦争が終わったマリンフォード。
そこかしこで、崩壊した要塞の建て直しが進んでいる。
各地へ出港する軍艦。
任務を終えて帰ってくる海兵。
建設関係の作業員。
マスコミ関係者達。
船着き場で、ウミはぼんやりと海を眺める。
小さく丸まって、目立たないように。
右腕の包帯は、まだまだ取れない。
トンテンカン―――
「おい、あれってガープ中将の孫の…」
「海賊の仲間だったって…」
「馬鹿!誰か聞いてたらどうすんだよ!?」
船着き場だから、当然兵士達が出入りする。
ばっちり本人に聞こえているが、聞こえないふりだ。はっきり言って、どうでも良い。
「センゴク元帥が謝ったらしい」
「え、元帥が!?ウミさんは海賊じゃなかったんだな?」
「麦わらと火拳が逃げれるように助けたってウワサは?」
「ウワサだろ…」
「ウワサだよな…」
そのウワサは、実は正しい。
終戦後、目を覚ましたウミは海軍から追い出され―――はしなかった。
ガープさんが泣きながら付きっきりで、おつるさんは優しくて、センゴクさんは疲れているのに謝りに来て、クザンさんとボルサリーノさんが入れ代わりに様子を見に来る。
今まで守るべきだった少女が敵ではないかという疑念はあるが、ガープさんとセンゴクさんのおかげか、小さなさざ波程度だ。
厄介なのはマスコミ関係…不本意な目立ち方をしてしまい、世界中に顔と名前が知られてしまった。何て恥ずかしいんだ。
それなのに何故こんな所にいるのかと言えば、部屋は崩れて危なくて、する事も何もないからだ。
怪我した腕では、かえって周囲に迷惑だ。そしてガープさんもセンゴクさんもおつるさんも、過保護に何もさせてくれない。
だから、任務で出てしまったガープさんの帰りを待つ以外、する事がない。
ガープさん、早く帰って来ないかな…暇だ。
「…おい」
かけられた声に、振り返る。
「何しちょる」
任務帰りのサカズキさんが、仁王立ちしていた。
「ガープさんを待ってます。帰って来るって連絡があったんです」
ついさっき、電伝虫で連絡があったのだ。
へにゃっと笑えば、眉間のシワが深くなる。
戦争の後、サカズキさんは何も言わない。
ただじっと、ウミを見ている。
「………おどれ、」
首を傾げて見上げるが、急に視界が青くなった。
「ウミちゃん、ここにいたのか」
いつの間にか、クザンさんが目の前に。
「海風に当たりっぱなしは体に悪いよ」
「もうすぐガープさんが帰ってきます」
「あぁ、お迎えね」
さりげなく、ではなくわざとらしく、ウミとサカズキさんの間に入ってきた。
「…クザンさん」
「ん、何だ?」
「あっち行ってください」
「!?」
シッシッと追い払う。
「仕事しなさい」
「命令!?」
ショックを受けつつも避けてくれそうにないので、ウミはさっさと距離を取り、サカズキさんの影に隠れた。
「ぇ…ちょ、何でサカズキの所に!?」
「クザンさん、気持ち悪い…」
もともと話し掛けられる事は多かったが、戦争が終わってからやたらと増えた。
「………な、なんでだ?」
小さく震えて完全に沈み込んだ人は、放置する。
「あ…サカズキさん」
「…なんじゃ」
じぃっと凝視してくる顔が怖い。眉間にシワ寄りまくりだ。
しかし、見た目なんてどうでも良い。今、サカズキさんはウミを殺そうとはしていない。
「おかえりなさい。お疲れ様です」
へらっと笑う。
ウミは、サカズキさんが怖くない。
何より怖かったのは、未来を知っている事だ。
もう何も、明日を知らない。
『今』が、嬉しい。
「…なぁ、ウミさんって赤犬大将に殺されそうになってたよな?」
「だよな」
「普通に話してる…てゆーか笑ってるぞ」
「大将も戸惑ってないか?」
「てゆーか凄んでる…?」
ウミがへらへら笑えば笑うほど、サカズキさんの顔がどんどん恐ろしくなっていく。