ワンピース

□青雉クザン
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「…あの、大馬鹿野郎!!」

クザンの頭を過ぎったのは、オハラでの出来事だ。

サカズキのマグマが、戦場にいるべきではない少女に向かう。
火拳を追うクザンには、成す術がない。





「やめろォ〜〜〜!!」

サカズキを止めたのは、一人の海兵。あれは…ガープさんが鍛えている青年だ。

「ウミさんが!何をしたって言うんです!?ガープさんを…僕達を心配して!黒ひげを何とかしようとしただけじゃないですかァ!!」

………それだけ、か?

あの子の行動は、少し不可解だ。
火拳と麦わらとは、おそらく幼なじみだ。ジンベエのネックレスはともかく、クロコダイルや白ひげ四番隊隊長に、ドフラミンゴ。
ガープさんの孫で海軍本部にいるとは言え、どう言う繋がりか?それに、黒ひげに対しての落ち着いた様子―――そのおかげで、海軍側は用意が出来たのだが。

「今だって!ウミさんはただ『生きよう』としてるだけじゃあないですかァ!!」

―――生きよう、と?



再び向けられたマグマ。

孫娘を守るはずの祖父は、センゴク元帥が押さえている。

「クソッ!!」

クザンは海面を凍らせて、海賊達の逃走を阻む。



ドォン―――と、聞こえた音に振り返る。
マグマが人を焼く音とは違う。

「あれは………赤髪ィ!?」

マグマを止めた男――――赤髪のシャンクスだ。



少女が、笑ったように見えた。



洋上には赤髪の船―――レッド・フォース号。
ボルサリーノが、赤髪の副船長ベン・ベックマンに止められている。





帽子を拾う赤髪に、麦わらのルフィと縁があるのだとわかる。

赤鼻に預けられた麦わら帽子。
かなり沖合に帽子が投げられて、もう火拳と麦わらは追いきれないと、小さく息を吐く。

他ならぬ海軍トップの元帥が、白ひげと組んで黒ひげティーチを捕らえたのだ。
戦場には、戦う気力と体力のあるものは、もういない。

「あ〜ぁ〜…、諦めるしかないかねェ〜〜〜…」

船のマストから広場に降りたボルサリーノ。ため息交じりだ。



ウミちゃんは何故か、赤髪のクルーに手当てされている。
一体どういう関係なのか?





赤髪の言葉を受け入れる元帥。
海兵は従うしかない。



負けた、か…。

火拳は逃げ、白ひげは生きている。黒ひげティーチの事件は、前代未聞の不祥事だ。電伝虫によって世界中に知られてしまった。

「…海軍の信頼、失墜じゃねェか」

まぁ、クザンには元より信頼も何もないのだが。



「黒ひげは決して逃がすな!すぐに連行しろ。海楼石の手錠は絶対にはずしてはならん!」

倒れている黒ひげ―――海楼石の手錠さえ嵌められれば、能力者は簡単に押さえられる。白ひげとの共闘は、上手い具合に行ったようだ。

「戦争は……、終わりだ!!」










黒ひげの腹に刺さっていたナイフを、サカズキが引き抜く。

ナイフ…?

それを見つめるサカズキは、苦々しい顔だ。いつも以上に眉間のシワが深い。

「…ウミちゃんのナイフじゃないの」
「クザン、知っちょるんか」
湾頭から黒ひげ達の所まで戻ったクザンは、サカズキの手のナイフを見やる。
これが黒ひげの腹に刺さっていたという事は、ウミちゃんが刺したのか。
「いつも使ってたナイフだと思うけど…これ、海楼石か!」
小さな刃の根本に付いている、小さな石―――これが黒ひげを止めたのか!?

「おー…、ウミちゃんにィ、おっきな借りができたねぇ〜…」
いつの間にかボルサリーノも戻って来ている。
「………わしは認めん。疑わしい事に変わりはない!」
「でもォ、ウミちゃんがいなかったらァ、黒ひげを捕まえられてないでしょォ〜〜〜…?」
ボルサリーノの言う通り。
彼女がいなければ、海軍は黒ひげティーチに踊らされて終わっていた。

サカズキとて、本気で殺すつもりなら、腕を狙ったりしない。体を狙っていれば、一貫の終わりだった。
けれどマグマが向かったのは、少女の右腕―――無意識なのか。

「赤髪と知り合いみたいだな」
「海賊と馴れ合うようなモンは、海軍にゃいらん!」
「ウミちゃんはァ、立場的には一般人だよォ〜。どういった知り合いかねェ〜…?」

赤髪相手に臆する事なく話す少女―――ほっとしたような、安心したような。



あんな笑顔は、初めて見る。





泣き顔も―――










「さみしいじゃないの…」

クザンはぽつりと、誰にともなく呟いた。

ガープさん以外どうでも良い、などと言われてしまった。
つまり、クザンもどうでも良いのだ。長年近くにいたというのに。

「…ま、仕方ねェか。俺ハナッから嫌われてるからなァ」

何故かと首を傾げるが、答えてくれる者はいない。



あぁ、ありゃ寝たな。

祖父の腕の中、しがみついたままの少女の姿は、痛々しいが微笑ましくもある。

あの子には、ガープさんが必要なのだ。


 

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