ワンピース
□モビー・ディック号にて2
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最近どうも、様子がおかしい。
何がおかしいかと言われると、何となく、だ。
「…キモいよい」
「なッ!人の気遣いに対してそんな言い草!?」
サッチがコーヒーを差し出した相手は、わずかに眉を寄せている。
「最近どうよ?」
「別に変わりないねぃ。相変わらずあの馬鹿は書類出さねぇ…あぁ、もう一人書類出さねェ奴がいたよい」
「…あ」
それって、俺か?
…俺だな。
風向きが悪くなってきた。てゆーかヤブヘビ?
「コーヒーよりも書類出してくれると良いんだけどねぃ………ま、ありがとよい」
コキコキと肩を鳴らしながらコーヒーを受け取るマルコ―――いつも通りだ。
いつも通り過ぎる。
俺の気にし過ぎか?
「最近疲れてんな」
「いつも通り疲れてるよい」
「…だよな。あんま根詰めんなよ」
差し入れのコーヒーと菓子を置いて、とりあえず今日は良いかと、マルコの部屋を出る。
…これだ。
後ろ手に閉めた扉―――サッチの背中に向けられた視線。
いつも通りなら、こんな気遣わしげな視線はない。数日前から、時おり、気付くか気付かないかという程度のもの。
自分は何かマルコに心配されるような事をしたか?
「ばれてないつもりかよ。全く…サッチ様を舐めんな」
長年家族をやっているのだ。些細なものでも気付く。
「オヤジに聞いてみっかァ?」
オヤジもきっと、何か変だと気付いている。
モビーの廊下で、サッチは一人首を傾げた。
まぁ、何かあっても何とかなる。うちは『白ひげ』なのだから。
悪魔の実を見付けたのは、偶然だった。
珍しいモンを手に入れて、少し浮かれていた。
浮かれ過ぎていたのかも知れない。
マルコの眉間のシワがいつも以上に深かったのを、たいして気に留めなかった。
ドンッと放たれた物が銃弾で、それが自分の体に当たったと、理解するのに数秒かかった。
「………ティーチ?」
こちらに銃を向けるのは、仲間で家族。
「何、やってんだ…?」
ギョロリと目を向ける男の表情は、自分の知っている物とは違う。
流れる血を少しでも減らそうと、撃たれた傷口を手で押さえるが、ぬるりと生暖かいものが止まらない。
ゴロンと床に転がったのは、悪魔の実。
ティーチの手がそれを拾う。
「ゼハハハ………やっとだ。やっと手に入れた!」
………やっと?
やっとだと!?
「長かったぜェ…これで俺の天下だ!」
今までずっと、この悪魔の実を狙ってたって事か!?
「ティーチ、てめェ…!」
俺を、家族を、オヤジを、ずっと騙していたのか!
剣を抜く前に、再びドンッと衝撃があった。
「サッチ…おめェを殺したくはないんだ。大人しくしといてくれよ」
「なに、を…」
かすみ始めた視界に、頭の中でまずいと警鐘が鳴る。
「クソ…!」
膝をついたサッチの視界に、青い炎が映った。
「サッチ!!」
呼ぶ声が、遠く聞こえた。
「サッチ!しっかりしろよい!!ティーチ、てめェ何やってんだ!?」
「おっと、マルコ隊長…俺に構ってる場合かァ?」
「…サッチ!」
「ゼハハハ…もうここに用はねェ!じゃあな!!」
目が覚めたのは、エースがモビーを飛び出した後だった。
ナースと共に船を降ろされる。
遠く沖合にモビーを見送って、サッチは小さく気合いを入れた。
「よし…行くか!」
「サッチ隊長?」
全快してない自覚はある。それでも行かない訳にはいかない。
「ダメです!マルコ隊長からも言われてます。あなたは私達とここで待機です」
「あぁ、俺が勝手するだけだ。ナース達にゃ迷惑かけねェよ」
「サッチ隊長!?」
引き止めるナース達にバッチリウィンクして、サッチは走った。
いくら怪我をしていても、ナース達よりずっと早い。
「ハァ…ハァ…」
ほんの少し走っただけで、息が上がる。
「オーズ!行くぞォ!」
「あぁ…エースぐん、はやぐ助ける!」
海岸に隠れて待っていたオーズの船に飛び乗った。
きっとオヤジには気付かれているが、止められなかったという事は…そういう事だ。
「うちの末っ子は手がかかるぜ!」
そもそもは、サッチがティーチに気付かなかったのが原因だ。
テメェの始末はテメェでつける―――はずだった。
サッチを突き落としたのは、守ろうとした少女。
「またぁアアア〜!?落〜ち〜るゥ〜〜〜!!」
「………邪魔、です」
邪魔!?
邪魔ってヒドくね!?
「お、おれ…何のためにあそこまで登ったんだよ!!ゼェ…ハァ…」
きちんと着地したものの、ヘコんでしまった。
あんな弱そうな女の子に、守られてしまったではないか。