ワンピース
□戦場にて5
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「………数秒、無駄にした。正しくもない兵は海軍にゃいらん!」
「え…」
ボコリと、マグマは容赦なくコビーに向かった。
「ああああぁあ!!」
ウミがコビーの服を掴んで引っ張ると同時に、ひらりと黒いマントが視界に入る。
ドォン―――と一本の剣が、マグマを止めた。
右手一本で持った剣。
それだけでサカズキさんのマグマを止めた赤髪の男――――シャンクスさんだ。
コビーはウミに引っ張られるまま、泡を吹いて倒れる。
「……よくやった…若い海兵」
…やっと、来た。
あれだけティーチと話したのだ。後はシャンクスさんが早く来てくれる事を祈るのみ―――
ウミは、痛む体を起こして沖を見た。
髑髏を掲げた帆船。
レッド・フォース号。
マストに小さく見える人影は副船長で、その近くに光って見えるのは、ボルサリーノさんか。
「何でここに……!」
ざわめく戦場。
「四皇がいるんだよ…!」
海賊も、海兵達も後退る。
「赤髪のシャンクスだァ!!」
いつの間にか落ちていた麦わら帽子を拾うシャンクスさん。
「この戦争を、終わらせに来た!」
バギーに麦わら帽子を投げて、物語の通りのやり取りをしている。
沖合に帽子が投げられて、トラファルガー・ローが来たのだと知る。
ちらりと目があって、ふっと笑われた。
「ひでェな…」
確かに、擦り傷打ち身に大火傷では、ひどい状態だ。
けれど不思議と、痛みは気にならない。ズキズキ、ジクジクと神経は騒ぐが、今のウミには安堵感のほうが大きい。
「あぁ、こりゃまた痕が残っちまうな…」
「はぁ…そうですか」
いつかと同じ、赤髪海賊団の船医が、いつの間にやら応急処置をしてくれている。
「白ひげ…センゴク…これ以上応戦するな」
シャンクスさん達を、ぼんやりと眺める。
ウミのしたかった事は、もうすべて終わった。もう、する事はない。
「白ひげ…エースは逃げた。もう目的は果たしただろう。あんたの家族はこれ以上死なねェ」
「………チッ、ハナタレ坊主に借りが出来たか」
満身創痍と言える状態の白ひげ。彼が見やるのは、今生きている息子達―――これ以上一人だって亡くしたくないはずだ。
エースはちゃんと逃げられた。もう、白ひげ海賊団に戦う理由はない。
「センゴク…処刑は失敗だが、戦争を仕組んだ黒ひげをここで捕らえられた。囚人達も。それで十分だろう」
「何を言う!ロジャーの息子を処刑しなければ、我々海軍の―」
「黙れ」
「元帥殿!?」
叫ぶ将校を、センゴクさんが制する。
「我々が黒ひげに踊らされたのは事実………火拳が逃げ、追うのが難しいのも事実だ」
センゴクさんと目があって、そらされた。
ウミとのやり取りを気にしているなら、そんな事はどうでも良い。
そっと息を吐いて、体の力を抜いていった。
もう走らなくても、明日は来る。自然、口元が緩んだ。
ウミもガープさんも、生きている。
「まだ暴れ足りねぇ奴がいるのなら………来い!俺達が相手をしてやる!!」
ボロボロの戦場に現れた四皇相手に戦う者など、いない。
ティーチも、戦えない。
抵抗すら出来ない。
「負傷者の手当を急げ…!」
指示を出すセンゴクさん。あちこちに倒れている人達が、ようやっと手当をされ、運ばれていく。
「黒ひげは決して逃がすな!すぐに連行しろ。海楼石の手錠は絶対にはずしてはならん!」
達海兵が取り囲んでいる場所―――中央には、黒ひげティーチ。
力無く地に倒れている男の腹部には、一本のナイフが刺さっている。
「戦争は……、終わりだ!!」
小さな刃が、黒ひげを止めた。
それは、サカズキをかすめもしなかったナイフだ。
ティーチの側までやって来たサカズキは、無言でそのナイフを引き抜いた。
「ぐゥ…」
うめくティーチを気遣う者はない。手錠を嵌められ、連行されていく。
能力者というのは、厄介だ。
小さな小石ひとつで動けなくなる―――小さな刃の根本に付いている、小さな石。
闇に引き寄せられた刃は、ウミが投げただけで、必ずティーチに向かう。必ず刺さる。
そうして吸収されたナイフの小石は、ティーチに触れてその効力を発揮した。
それを見逃す海軍ではない。
海楼石の手錠を嵌められたティーチは、何も出来なかった。